我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
──コンコン

「誠護さん?」

彼の部屋の扉をノックする。

「何?」

不機嫌な声が帰ってくる。

「ご飯、冷めちゃいましたよ?」
「知ってる」
「食べないんですか?」
「食うよ、あとで」
「……」
「……用事、それだけならどっか行け」

違う。そういうことが言いたかった訳じゃない。

「あの……」
「まだ何かあんの?」
「……少し、お話しませんか?」
「はあ? 俺は話すことなんて何も……」
「私は、お話、したいんです。ここでも、いいから……」

消え入りそうな声でそういうと、ガラっと目の前の襖戸が開いた。
目の前に現れる、大きなからだ。

「入れよ。そんなとこで突っ立って話されんの、迷惑」

卑下するような目でこちらを見下して、誠護さんはそう言った。

 *  *  *

彼の部屋に入ると、小さなちゃぶ台の前に座るよう促された。
8畳ほどの部屋には、勉強机と本棚、それに畳まれた布団があるだけで、からだの大きな彼には少し狭い気がした。

私の向かい正面にどかっとあぐらを組んで腰を落とした彼は、面倒くさそうにあくびをこぼす。

「で、何?」
「あ……えっと、私……」
「告白なら、聞かねーよ? 言ったろ、俺に惚れるなって」
「でも……」
「でも、じゃない。言われてもこっちも困るから」

心底嫌そうな顔で膝に頬づえをついた誠護さんは、そのまま頭をくしゃくしゃと掻いた。

──どうしてこんなに面倒くさい人に惚れてしまったのだろう。

目の奥が熱くなって、鼻をすすった。

「……泣くなよ、面倒くせえ」
「まだ泣いてない」
「泣きそうな顔でよく言うわ」
「だって……」

もう、無理だ。
思いが溢れて、止まらない。

「言ったって言わなくたって結果が同じなら、伝えたっていいじゃないですか!」
「はあ?」
「ご存じの通り、私は誠護さんが好きです!だから、避けられるの、傷付くんです!」

溢れてきた言葉と涙。

「面倒くせえから、泣くなって言ったろ」

勉強机の上にあったティッシュの箱を差し出して、誠護さんはそう言った。

「それに、何言われても俺は変わらない。言ったろ? 俺は恋人は作らない。好意も迷惑。やめてくれないなら、避けるしかない」
「何でよ……何で、全部……」

ぽろぽろとこぼれ落ちていく涙。
鼻をかめば、目の前にゴミ箱が差し出された。
こういうところは、すごく優しいのに。

「こういう仕事だからだ」

誠護さんはそっぽを向いていたけれど、ぽつぽつと自身のことを話し出した。
< 16 / 24 >

この作品をシェア

pagetop