我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
7 大切な人は作らない
「俺はさ、消防で働いてる。だから恋人は作らない」
「え……」
誠護さんは膝に頬杖をついたまま、窓の外に視線を投げている。私は取り出した何度目かのティッシュを握りしめたまま、その横顔を見つめていた。
「火事があったら、俺は出動する。消防士だから」
「それは……」
当たり前でしょ、と言おうとしたのに、彼の声がそれを阻んだ。
「たとえ一軒屋の火事だろうが、大型ビルの火事だろうが。もし中で動いている命があるなら、俺は全力でその人を救いに行く。たとえそれが、どんなに絶望的な状況でも」
「……」
「俺が言いたいこと、分かったか?」
そうか。
彼は、消防士として。救命士として。
どんな危険と隣り合わせでも、救える命は救いたいんだ。
先日の火事の恐怖が思い出される。
あの時駆けつけてくれた彼の声に見えた、生きる希望。
そして、先程園長から聞いた、”救えたかもしれない命”を救えなかった彼の無念。
だから、彼はこんなにも……。
またはらはらと涙が溢れてきて、慌てて下唇を噛んだ。
誠護さんは一度こちらをちらりと見たけれど、すぐに視線をまた窓の外に戻した。
「俺は、残された家族の辛さも知ってる」
「え……」
「親父を救えなかったのは、俺だ」
「それは、違っ……」
「……お前、知ってたのか」
「ごめん……さっき、園長に聞いた」
「いや、いい。お袋が勝手に言ったんだろ」
はあ、とため息をついた誠護さんは、がしがしと髪をかきむしった。
「俺はもう、誰もあんな気持ちにさせたくねーんだ……」
「誠護さん……」
うう、と思わず嗚咽を漏らすと、誠護さんはまた盛大にため息を吐き出す。
「なんでお前が泣くんだよ」
「だって……」
誠護さんの優しさを知ってしまったから。
たとえそれが、私ではなく彼に好意を寄せる全女子にたいして向けられたものだとしても。
「どっかで誰かが必死に生きようとしてるなら、俺はその命を救いたい。たとえ、身近な人の幸せを犠牲にしてもな。救命士の資格取ったときに、そう誓った」
相変わらず窓の外に視線を向けたままの彼。けれど、先程よりも幾分目線が下がっている気がした。
──彼が誓ったのは、救命と引き換えにした、孤独。
彼にはそれが当たり前かもしれない。
けれど、突き放すようなその言葉の裏側で、誠護さんが『寂しい』と言っているように聞こえてしまって。
気づいたら、体が勝手に動いていた。
あぐらのままの彼の横に立って、その頭を思いっきり抱き寄せていたのだ。
「なんなんだよ、急に」
「だって……そんなの、寂しすぎるよ」
「え……」
誠護さんは膝に頬杖をついたまま、窓の外に視線を投げている。私は取り出した何度目かのティッシュを握りしめたまま、その横顔を見つめていた。
「火事があったら、俺は出動する。消防士だから」
「それは……」
当たり前でしょ、と言おうとしたのに、彼の声がそれを阻んだ。
「たとえ一軒屋の火事だろうが、大型ビルの火事だろうが。もし中で動いている命があるなら、俺は全力でその人を救いに行く。たとえそれが、どんなに絶望的な状況でも」
「……」
「俺が言いたいこと、分かったか?」
そうか。
彼は、消防士として。救命士として。
どんな危険と隣り合わせでも、救える命は救いたいんだ。
先日の火事の恐怖が思い出される。
あの時駆けつけてくれた彼の声に見えた、生きる希望。
そして、先程園長から聞いた、”救えたかもしれない命”を救えなかった彼の無念。
だから、彼はこんなにも……。
またはらはらと涙が溢れてきて、慌てて下唇を噛んだ。
誠護さんは一度こちらをちらりと見たけれど、すぐに視線をまた窓の外に戻した。
「俺は、残された家族の辛さも知ってる」
「え……」
「親父を救えなかったのは、俺だ」
「それは、違っ……」
「……お前、知ってたのか」
「ごめん……さっき、園長に聞いた」
「いや、いい。お袋が勝手に言ったんだろ」
はあ、とため息をついた誠護さんは、がしがしと髪をかきむしった。
「俺はもう、誰もあんな気持ちにさせたくねーんだ……」
「誠護さん……」
うう、と思わず嗚咽を漏らすと、誠護さんはまた盛大にため息を吐き出す。
「なんでお前が泣くんだよ」
「だって……」
誠護さんの優しさを知ってしまったから。
たとえそれが、私ではなく彼に好意を寄せる全女子にたいして向けられたものだとしても。
「どっかで誰かが必死に生きようとしてるなら、俺はその命を救いたい。たとえ、身近な人の幸せを犠牲にしてもな。救命士の資格取ったときに、そう誓った」
相変わらず窓の外に視線を向けたままの彼。けれど、先程よりも幾分目線が下がっている気がした。
──彼が誓ったのは、救命と引き換えにした、孤独。
彼にはそれが当たり前かもしれない。
けれど、突き放すようなその言葉の裏側で、誠護さんが『寂しい』と言っているように聞こえてしまって。
気づいたら、体が勝手に動いていた。
あぐらのままの彼の横に立って、その頭を思いっきり抱き寄せていたのだ。
「なんなんだよ、急に」
「だって……そんなの、寂しすぎるよ」