我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
まだ5月の頭だというのに、初夏のような気温に日差し。
半袖で駆け回るこどもたちを見ながら、公園の芝生の広場にやって来た。
すると、すぐに芝生の上にどすっとあぐらをかいた誠護さんは、そのまま背中に芝がつくことも躊躇わずその場にごろんと寝転がった。

「え、誠護さん……」
「お前が芝生に寝転がるって言ったんだろ」

確かに、他にも寝転がっている人はいるけれど……。

「なに、人にさせといてしない訳?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「じゃ、ほら、ここ。来いよ」

口角をニヤリとあげて、自分の横をポンポンと叩く彼。
ええい、こうなったら!

その場にごろんと寝転がる。
そのまま大の字になれば、世界は私と空だけになったような気分になる。

「はあー、きっもちいい!」
「はは、やっぱり能天気」

誠護さんは少しだけ頭をあげて、組んだ手をその下に敷いた。

穏やかな陽気。
居心地のいい時間。
恋人のような距離。
今が、ずっと続けばいいのに。

「ねえ、誠護さん」
「ん?」

私の声に、誠護さんは顔をこちらに向けた。

「どうしても、お付き合いできないですか?」
「お前、まだ諦めてなかったの?」

しまった。
どうしてそんなことを口走ってしまったのだろう。
私が望むものを、彼がくれないのは解っているのに。

誠護さんは頭の下にあった手で、そのままぐしゃぐしゃと髪をかきむしった。

「あのさ……お前、案外学習能力ねーみたいだから、もう一回言うけど」
「恋人は作らない、でしょ。何回も聞いた」
「分かってんなら言うな」
「だって……」

『好きなんだもん、仕方ないじゃん』

なんて、言えたらいいのに。
すんでのところで飲み込んだ。
この人の覚悟を、この間聞いてしまったから。

けれど、この次の言葉が私に期待を持たせる。

「お前と俺が仮に付き合ったとして。お前は大火事に飛び込んでいく俺に、『行ってらっしゃい』って笑顔で言えるか?」

誠護さんは空を仰いだまま言った。

「お前と俺が結婚したとして。ハネムーンの前日に大火災が発生したら、『早く行け』って俺の尻叩けるか?」
「え……」

結婚、ハネムーン。
その言葉に、勝手に胸がときめく。

「お前と俺のガキができたとして。お前が必死に新しい命産み出そうとしてるときに、救急車に乗って出動してる俺を、恨んだりしないか?」

こども、家族。

それは、紛れもなく私と誠護さんとの未来。
だから、私の胸は勝手に高鳴る。

「ねえ、それって……」
「俺はお前にそんな気持ちになって欲しくねーんだよ」

私に言葉の先を言わせることなく、誠護さんは空を仰いだままそう言った。
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