我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
土曜の街は、まだ午前中だというのに人が多い。
誠護さんに車を出してもらって、ひとつ隣の街の大型ショッピングモールへとやってきたのだ。

手近な値段のアパレルショップを周り、自分の服を買う。
とりあえず、普段着一着、ジャージ三着。

「ジャージ女」

隣で誠護さんがケラケラ笑った。

「仕事の時はこれだから、いいんです!」
「お前、威勢はいいなぁ」

そう言いながら、会計の終わった袋を有無を言わず持ってくれるところにはちょっとだけときめく。

「とりあえず、着替えれば?」

彼がそう言ったのは、私が下着を買いに行って戻った後だった。彼は本屋で雑誌を立ち読みしていた。

「え、でも……」
「今着てるの、全部お袋のだろ? ま、お前が嫌じゃないならいいんだけどよ」
「別に……」

いや、ここは着替えるべきか。
そうなると、もう一着普段着を買うべきか。
迷っていると、コツンとおでこを小突かれた。

「迷ってるなら、買えばいいだろ。お前、ちゃっかり貴重品全部持って家出てたもんなぁ……」
「それ、嫌味ですか?」
「褒めてんの。あんな窮地で、ちゃんと未来見据えた行動してた」

そう言った誠護さんは読んでいた雑誌を棚に戻して、さっさと本屋の出口に向かう。
いつも足の早い彼を追いかける形になるのが、なんだかいちいち癪に障る。

「でも……」
「まさか、貯金ゼロ?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「じゃあ、どういう訳だ」

人の事情に口出しやがって、こいつは……

思わず口にしそうになって、やめた。
彼がいなければ、私は死んでいたかもしれない。

「ま、買わないんだとして今ジャージに着替えるなら、俺の隣は歩くなよ?」
「はぁ?」
「ジャージ女が彼女だって思われるの、俺のプライドが傷付く」
「か、彼女って!」
「端から見たらそーだろ。年、近そうだし」
「え、そうなんですか?」
「俺、25。お前は?」
「22です……」
「へえ……」
「女性に年齢聞いといて、興味なさそうとかどういう……っ!」

彼はピタリと足を止めた。
話しながら必死に彼の歩幅に合わせて足を動かしていた私は、思わずつんのめる。

「ったーい!」

そのまま、彼の背中に鼻先がぶつかったのだ。

「前見て歩けよ、ジャージ女」

彼はそう言ってふっと笑った。

「もう、失礼だな……」

そう言って顔を上げて、私は目を見開いた。
そこは、最初に寄ったアパレルショップだったのだ。

「早く選べよ~」

彼はそう言って、手頃な柱に寄りかかり、ポケットからスマホを取り出していじり始める。

「ありがとう……ございます……」

そう言うと、彼は左手をひらひらと振った。

結局チュニックとレギンスを買い、お店の試着室で着替えてから誠護さんと合流した。

「へえ、いいじゃん」

彼はそれだけ言うと、私の手から着替えが入った袋を奪う。

「あ、それ……」
「いいの。これはお袋のだから、実質俺んちの」
「でも……」

──バタン!

言いかけたときに、突然大きな物音がした。
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