我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
3 我が町のヒーロー
それから、なんだかんだで無事に月曜を迎えることができた。
土曜の買い物のあとは、諸々の手続きに奔走。大家さんから、住んでいたアパートからの撤退を余儀なくされたのだ。
日曜は仕事への準備。仕事に必要なものは、とりあえずは園長が手配してくれた。
「恩に着ます~」
「いいのよ、困ったときはお互い様」
そう言ってくれたけれど、本当にどれもこれも、全部園長のお陰だ。
そして訪れた月曜日。
腫れ物のように先生方が私を扱うなか、園長だけは普段通りに接してくれた。
しかし、それも朝だけのこと。
園児たちが登園してくれば、あっという間に日常がやって来る。
私の勤めるみちる保育園は、0歳児から6歳児まで、合わせて80人の園児が通園する。
勤めている保護者が多いから、子供を園に預けたらすぐさま仕事へ向かう方が多い。
玄関から泣き出す子、ママがいいとくっついて離れない子……その子たちを保護者から引き剥がすところから、2歳児クラスの担任になった私の仕事は始まる。
2歳児クラスから預かれる園児の数が増え、この年から集団生活に入る子どもたちも少なくない。去年まで5歳児クラスを担当していたから、彼彼女らはなんて立派に育ったのだろうと思わずその背中を思い出しては苦笑いを浮かべてしまう。
「今日はいいお天気なので、お散歩に出掛けましょう」
朝の会の最後にそう告げると、園児たちはおおはしゃぎだ。
歓声の上がるクラス内に広がる、幼い笑顔。
ああ、生きていてよかった。
この笑顔を見ることができたから。
そんなことを思うと、不意に私を助けてくれた、大きな逞しい腕を思い出す。
「紅音先生、顔真っ赤~!」
「はふぇ!?」
気づけば園児の一人が私の顔を覗いている。
「あはは、先生変な声~!」
無邪気に笑って駆けていく女の子の背中を見ながら、いけないいけないと両頬をペチペチ叩いた。
* * *
「ここを左に曲がりま~す」
10人の園児を引き連れ、公園遊びをした後。商店街を抜けた先、みちる保育園へ帰る途中だった。
「先生、消防車!」
ふと顔をあげれば、目の前に現れたピカピカの赤いボディ。
「消防車、かっこいい!」
10人の園児たちは、とたんにテンションMAXになり、ワイワイと騒ぎだす。
「かっこいいけど、お友だちの手を離してはダメですよ」
そう言いながら、結局は消防車に釘付けな彼らを見守るように、その脇を通る。
「あ、消防士さん!」
男の子の一言に、子どもたちの羨望の眼差しがその前にいた男性に注がれる。
「違うよ、だって青い服着てる」
他の子が言い出すと、女の子が言う。
「お兄さんは、消防士さんですか?」
「はい、そうですよ?」
そう答えた聞き覚えのある声に、私ははっと顔を上げた。
土曜の買い物のあとは、諸々の手続きに奔走。大家さんから、住んでいたアパートからの撤退を余儀なくされたのだ。
日曜は仕事への準備。仕事に必要なものは、とりあえずは園長が手配してくれた。
「恩に着ます~」
「いいのよ、困ったときはお互い様」
そう言ってくれたけれど、本当にどれもこれも、全部園長のお陰だ。
そして訪れた月曜日。
腫れ物のように先生方が私を扱うなか、園長だけは普段通りに接してくれた。
しかし、それも朝だけのこと。
園児たちが登園してくれば、あっという間に日常がやって来る。
私の勤めるみちる保育園は、0歳児から6歳児まで、合わせて80人の園児が通園する。
勤めている保護者が多いから、子供を園に預けたらすぐさま仕事へ向かう方が多い。
玄関から泣き出す子、ママがいいとくっついて離れない子……その子たちを保護者から引き剥がすところから、2歳児クラスの担任になった私の仕事は始まる。
2歳児クラスから預かれる園児の数が増え、この年から集団生活に入る子どもたちも少なくない。去年まで5歳児クラスを担当していたから、彼彼女らはなんて立派に育ったのだろうと思わずその背中を思い出しては苦笑いを浮かべてしまう。
「今日はいいお天気なので、お散歩に出掛けましょう」
朝の会の最後にそう告げると、園児たちはおおはしゃぎだ。
歓声の上がるクラス内に広がる、幼い笑顔。
ああ、生きていてよかった。
この笑顔を見ることができたから。
そんなことを思うと、不意に私を助けてくれた、大きな逞しい腕を思い出す。
「紅音先生、顔真っ赤~!」
「はふぇ!?」
気づけば園児の一人が私の顔を覗いている。
「あはは、先生変な声~!」
無邪気に笑って駆けていく女の子の背中を見ながら、いけないいけないと両頬をペチペチ叩いた。
* * *
「ここを左に曲がりま~す」
10人の園児を引き連れ、公園遊びをした後。商店街を抜けた先、みちる保育園へ帰る途中だった。
「先生、消防車!」
ふと顔をあげれば、目の前に現れたピカピカの赤いボディ。
「消防車、かっこいい!」
10人の園児たちは、とたんにテンションMAXになり、ワイワイと騒ぎだす。
「かっこいいけど、お友だちの手を離してはダメですよ」
そう言いながら、結局は消防車に釘付けな彼らを見守るように、その脇を通る。
「あ、消防士さん!」
男の子の一言に、子どもたちの羨望の眼差しがその前にいた男性に注がれる。
「違うよ、だって青い服着てる」
他の子が言い出すと、女の子が言う。
「お兄さんは、消防士さんですか?」
「はい、そうですよ?」
そう答えた聞き覚えのある声に、私ははっと顔を上げた。