我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
「昼間はありがとうございました」
今日は定時で帰ってきた誠護さん。キッチンで夕飯の支度をしていた彼に、ぺこりと頭を下げた。
昨日は当直で帰っていなかったのだ。
「ん、別に」
彼はそっけなく返しながら、お鍋の味を見ていた。
良い匂い。おそらく、彼は料理上手。
「お前も食う?」
「え、良いんですか?」
「いーよ、二人分も三人分も一緒」
「ありがとうございます!」
正直、園長にごちそうになるのならまだしも、彼の手料理となると抵抗があったのは事実。
しかし、この匂いに仕事終わりの空腹は待ったなしだ。
そこへ、ちょうどよく園長が帰ってくる。
「誠護がいる日は楽ねぇ~」
そう言いながら、うふふと笑って三人で食卓を囲む。
園長はささっと食べ終わると、老人は早く寝るからとさっさとお風呂に立ってしまった。
「園長、まだ現役バリバリなのに……」
思わず飛び出た本音に、誠護さんはケラケラ笑った。
「お袋さ、俺のことコキ使うくせに、俺との距離感微妙なんだよな……ま、しょーがねーけど」
誠護さんはそう言って、冷蔵庫からビールを取り出す。
「お前も飲む?」
「え、いいんですか?」
誠護さんはまたケラケラ笑った。
「お前またそれ聞くのな。いいから言ってんの。分かる?」
そう言いながら、ビールを手渡してくれる。
「はい、乾杯」
そのまま私の缶に自分の飲みかけのそれを無理矢理ぶつけて、誠護さんはニヤっと笑った。
「しっかし、あの子ら可愛かったな! 何歳?」
「主に2歳。3歳はまだ1人だから」
「そっか。まだ4月だもんなぁ」
時折聞こえる、車の通る音。彼のゴクリとビールを飲み込む音が聞こえる。
「なあ、消防士って、やっぱオレンジ色のイメージなのか?」
「そうだね。……子どもたちの絵とか見てると、大体そう」
「そっか……俺は、あの紺色の隊服気に入ってんだけどなぁ」
「へえ」
「でも、本命はグレーの方」
「え?」
思わず聞き返すと、誠護さんもキョトンとした。
「俺、救命士になりたくて消防入ったから」
「へえ……」
「親父がさ、心臓発作で救急車で運ばれて……助からなくて、そのまま。それで、助けられる命は助けたいって、思うようになった」
また彼はビールをゴクリと飲み込む。
「ま、あん時は『助からない命もある』ってことに気づいてなかったからさ」
この家に来た夜のことを思い出す。
仏壇に、熱心に手を合わせていた彼。
彼は父親の死に、何を感じていたのだろう。
けれど、そんな他人の事情にまで首を突っ込んでいい気がしなくて、私は黙った。
「お前は?」
「え?」
「なんで保育園のセンセイになったんだ?」
「……子どもが好きだから、かな」
「お前らしいな」
「そうかな?」
「理由が単純」
「!」
誠護さんはケラケラ笑った。
一瞬照れた自分を恨む。
「お。お袋そろそろ風呂出たんじゃね? お前、先入れよ」
「え、でも……」
「俺は最後にゆ~っくりの~んびり入りたいの! だからさっさと出てこいよ?」
誠護さんはニヤリと笑う。
「分かった!」
語調を強めにそう言うと、誠護さんは「あ、」と声をあげた。
「そーいや、今度保育園行くから」
「え、何しに!?」
「防災訓練」
「あ~、消防車来るやつね。子どもたちも楽しみにしてる」
「それは嬉しいねえ~」
誠護さんはそう言いながら、ビールをあおいでいた。
今日は定時で帰ってきた誠護さん。キッチンで夕飯の支度をしていた彼に、ぺこりと頭を下げた。
昨日は当直で帰っていなかったのだ。
「ん、別に」
彼はそっけなく返しながら、お鍋の味を見ていた。
良い匂い。おそらく、彼は料理上手。
「お前も食う?」
「え、良いんですか?」
「いーよ、二人分も三人分も一緒」
「ありがとうございます!」
正直、園長にごちそうになるのならまだしも、彼の手料理となると抵抗があったのは事実。
しかし、この匂いに仕事終わりの空腹は待ったなしだ。
そこへ、ちょうどよく園長が帰ってくる。
「誠護がいる日は楽ねぇ~」
そう言いながら、うふふと笑って三人で食卓を囲む。
園長はささっと食べ終わると、老人は早く寝るからとさっさとお風呂に立ってしまった。
「園長、まだ現役バリバリなのに……」
思わず飛び出た本音に、誠護さんはケラケラ笑った。
「お袋さ、俺のことコキ使うくせに、俺との距離感微妙なんだよな……ま、しょーがねーけど」
誠護さんはそう言って、冷蔵庫からビールを取り出す。
「お前も飲む?」
「え、いいんですか?」
誠護さんはまたケラケラ笑った。
「お前またそれ聞くのな。いいから言ってんの。分かる?」
そう言いながら、ビールを手渡してくれる。
「はい、乾杯」
そのまま私の缶に自分の飲みかけのそれを無理矢理ぶつけて、誠護さんはニヤっと笑った。
「しっかし、あの子ら可愛かったな! 何歳?」
「主に2歳。3歳はまだ1人だから」
「そっか。まだ4月だもんなぁ」
時折聞こえる、車の通る音。彼のゴクリとビールを飲み込む音が聞こえる。
「なあ、消防士って、やっぱオレンジ色のイメージなのか?」
「そうだね。……子どもたちの絵とか見てると、大体そう」
「そっか……俺は、あの紺色の隊服気に入ってんだけどなぁ」
「へえ」
「でも、本命はグレーの方」
「え?」
思わず聞き返すと、誠護さんもキョトンとした。
「俺、救命士になりたくて消防入ったから」
「へえ……」
「親父がさ、心臓発作で救急車で運ばれて……助からなくて、そのまま。それで、助けられる命は助けたいって、思うようになった」
また彼はビールをゴクリと飲み込む。
「ま、あん時は『助からない命もある』ってことに気づいてなかったからさ」
この家に来た夜のことを思い出す。
仏壇に、熱心に手を合わせていた彼。
彼は父親の死に、何を感じていたのだろう。
けれど、そんな他人の事情にまで首を突っ込んでいい気がしなくて、私は黙った。
「お前は?」
「え?」
「なんで保育園のセンセイになったんだ?」
「……子どもが好きだから、かな」
「お前らしいな」
「そうかな?」
「理由が単純」
「!」
誠護さんはケラケラ笑った。
一瞬照れた自分を恨む。
「お。お袋そろそろ風呂出たんじゃね? お前、先入れよ」
「え、でも……」
「俺は最後にゆ~っくりの~んびり入りたいの! だからさっさと出てこいよ?」
誠護さんはニヤリと笑う。
「分かった!」
語調を強めにそう言うと、誠護さんは「あ、」と声をあげた。
「そーいや、今度保育園行くから」
「え、何しに!?」
「防災訓練」
「あ~、消防車来るやつね。子どもたちも楽しみにしてる」
「それは嬉しいねえ~」
誠護さんはそう言いながら、ビールをあおいでいた。