公然の秘密
行き先は特に決まっていなかった。

当然のことながら弘人は追いかけてこなかった。

「もう何なのよ…」

“長く交際しているから=結婚”と言う自分の考えが古いのだろうか?

妹を始めとする周りの人たちが結婚や出産をしているから次は自分だ…と思っているのはおかしいことなのだろうか?

「弘人が全然わからない…」

そう呟いた時、
「何してんの?」

聞き覚えのある声が聞こえたので視線を向けると、尾関だった。

「尾関さん…」

仕事帰りなのだろうか?

そう思っていたら、尾関が歩み寄ってきた。

「仕事帰りじゃなさそうだけど…えっ、何かあったの?」

心配そうな顔をしている尾関のその様子に、柚愛の目から涙がこぼれたのがわかった。

「えっ…ちょっと、何!?

ど、どうしたの!?」

突然泣き出した柚愛に、尾関はオロオロしていた。
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