公然の秘密
彼らは入り口に近い席に腰を下ろした。

自分たちが座っているところは奥に近い方で、そのうえ仕切りがあるので彼らはここに自分がいることに気づいていないようだった。

「田川さん、家に帰らなくていいんですか？」

同僚の男がおしぼりで手を拭きながら弘人に聞いた。

「ああ、いいんだいいんだ」

弘人は返事をすると、おしぼりで顔を拭いた。

店員に生ビールと串カツの５点盛り、枝豆とオニオンスライスを注文した。

「最近、家に帰ってないですよね？

何かあったんですか？

前は彼女が待ってるからって言って仕事が終わると真っ直ぐに家に帰ってたのに」

店員がいなくなると、同僚の男が弘人に話しかけた。

「それがさ…あいつ、最近うるさいんだよ」

弘人はやれやれと言うように息を吐いた。
< 42 / 211 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop