公然の秘密
「家を出たのは本当ですけど…」

「それはわかってる、俺と一緒に話しただろ?

その時に、あんたは全ての経緯を俺に話してくれたじゃないか」

あいつ、ぶん殴ればよかった…と、尾関は呟いた。

怒るのは自分のはずなのに、彼が自分の代わりをするように怒っていた。

柚愛は怒る気になれなかった…と言うよりも、自分の中の“何か”がプツリと音を立てて切れてしまっていたような気がしていた。

(弘人は…あの人は、もう本当にそんな気がないんだな…。

結婚する気もないなら子供もいらないんだ…。

そんな気がない人のことを待つ必要もなければ、追いかける必要もないよね…)

今まで弘人と過ごした思い出が自分の中で消えて行くのがわかった。
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