公然の秘密
「よし、そうと決まればまずはあんたの荷物を取りに行くぞ。

どうせヤツは帰ってこないんだ、行くぞ」

「は、はい!」

そう言って歩き出した尾関の後を追うように柚愛も歩き出した。

家に到着すると、弘人は当然のことながら帰っていなかった。

柚愛はボストンバックに下着と着替え、それから必要なものを全て入れた。

「これで全部かな」

そう呟いた後で、ボストンバックのチャックを閉めた。

最後に裏面が白い広告用紙を取ると、テーブルのうえに置いた。

弘人に言いたいことや文句はたくさんあるが、もうこの先の人生で彼に関わることはもうないだろう。

『お世話になりました』

マジックペンでそう書くと、柚愛は広告のうえに置いた。

ボストンバックを手に持った後で一礼をすると、柚愛は部屋から立ち去った。
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