公然の秘密
「誰もいなかったか?」

部屋を出ると、尾関が待っていた。

「ええ、当然のことですが」

「顔を見なくてよかったか?

あいつに言いたいことや文句はあるはずだろう?」

そう言ってきた尾関に、柚愛は首を横に振った。

「何もありません。

あの人に言いたいことや文句は、もうありません。

どうせ言ったところでどうにかなる訳じゃないですし、関係も元に戻る訳じゃありません。

この先の人生であの人に関わることなんてまずないでしょうし、私もそれを望んでいますから」

「そうか」

尾関は一言だけ返事をすると、
「行くぞ」
と、背中を見せた。

「ーーさようなら」

柚愛は今まで住んでいた部屋のドアに向かって呟くと、尾関の背中を追った。

最後に郵便ポストの中に合鍵を入れると、尾関と一緒に住んでいたその場所を立ち去ったのだった。
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