午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、
ひょえ、と真横から聞こえた。
「舌うち……!」
「あんたにしたわけじゃないよ、ごめん」
そうだよ、あんたじゃない。
私が、ストーカーされてもなあなあで済ませられるのも、自分を気持ち悪いと思うほど嫉妬させられるのも、顔が浮かんだだけで舌うちするほどイラつくのも、全部、ぜんぶ、あいつ、だからだ。
そう思って、また、腹が立った。こんなにも私の感情を乱すくせに、あいつは、いつだって、誰にだって、変わらない。私はあいつにだけなのに、あいつは、私にだけじゃない。
「…………別に、いない、」
「へ」
「だから、好きなヤツ、」
「っえ、あ、マジ!?」
大人気ないとは思った。子供染みてるな、とも。
だけど別に、いなければ恋バナの聞き役に回るってだけで、困ることもないから、これぐらい言ってやんないと私の気が治まらなかった。
そもそも、だ。話題をふってきたのは円山の方なのだから、話のとっかかりとして聞いただけで、私のことなどどちらでも良かったに違いない。
まぁ、何だ。隣の席だし、話ぐらいは聞いてやらなくもないよ。
「っしゃ! あ、えと、あのさ、瑞希、」
「何」
「お、俺と、付き合って、欲しい……!」
なんて思ったことを、よもや秒で後悔するはめになるとは、全くもって予想外だった。