午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、

 どこに?
 なんてベタな返しがダメなことぐらい、私だって知っている。だからといって、イエスを返す気は更々ない。
 あいつのことを差し引いて考えても、私は円山のことをよく知らない。同じクラスで、今は隣の席。彼への認識はただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
 そしてそれは、円山だって同じなはず。確かに、話しかけられれば返事はするし、たまに消しゴムを貸してくれとねだられることはあったけれど、それだけで恋心が芽生えるとは思えない。
 あれかな。
 そろそろ彼女ほしー! って、やつかな。
 何。私みたいな色黒筋肉女ならOKするんじゃね? とか思われてんの?
 殴るぞ。

「っ俺!」
「……え」
「もう帰るからさ、その、考えて欲しい。さっきの返事」
「え、や、」
「瑞希は俺のこと全然知らないだろうし、興味もないと思うけど……俺は、本気で瑞希のこと好きだから」
「……」
「じゃあな!」

 なんて、思考を巡らせていれば、突然、隣にあった気配が立ち上がった。
 かと思えば、ついでとばかりに色々と付け足して、円山は公園から走り去っていった。

「…………マジか、」

 あいつじゃない男から、初めて告げられた「好き」という言葉。それが本気か否かは(はか)りかねるが、どちらにせよ、全く、イチミリも、それが心に響かなかったことに、私は驚きを隠せなかった。
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