午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、

 もしかして、私の人生、ここで終了?
 たまにニュースで見る、痴情の(もつ)れから生まれた加害者と被害者。よもやその当事者になる日が来ようとは、誰が予想外できただろうか。

「っ、やだ、やだよ、みっちゃん、」

 なんて思っていれば、あと数センチで鼻先が触れる、という距離でそいつがぴたりと止まった。
 かと思えば、細めていたそこにぶわりと水がわいて、溢れて、こぼれて、大粒のそれがぼろぼろと落ちていく。

「ごめん、ごめんね、」

 みっちゃん。
 呼ばれて、右肩にずしりとした重み。掴まれていた腕はいつの間にか解放されていて、その代わりに壁と背中の隙間にねじ込まれたふたつの腕。
 背骨が軋むほどに、きつく抱き締められて、ぐ、と息がつまる。
 
「気持ち悪い、とこ……直す……っ、直す、から、ねぇ……やだよ、捨てないで、」

 ぐりぐりと擦り付けるように、けれどそれにしてはなかなかに強めなそれに呆然としていれば、またしても「みっちゃん」と小さな声で紡がれたあだ名。

「っ、好き、好きだよ」

 ドッ、と。
 バカみたいに大きく、心臓がはねた。
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