午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、
待て。こいつ、そういう性癖持ちなのか。
「あのときね、みっちゃんのこと、話してたんだ。それでね、話してたら、みっちゃん好き本当好き、ってなっちゃって……会いたいなぁ、って、なったんだけど、」
一瞬の戸惑い。
しかし、次の瞬間には、目の前で吐き出された音の羅列に思考が方向転換を開始する。
「逆、ってことは、みっちゃんが僕のこと考えて、他の誰かにすごく好きだって話して、好き好き、ってなってくれて、僕に会いたいなぁ、って思ってくれる、ってことでしょ?」
「…………あ、や、まっ」
「そんなの、嬉しいなんて言葉じゃ足りないくらい嬉しいよ。幸せ過ぎて死んじゃうよ……ねぇみっちゃん、来世でも、僕と一緒にいてく」
「ちょっと待って黙ってシャラップ」
音を吐く度に、恍惚とした表情へと移り変わっていくそいつの顎に手をあて、無理矢理、上を向かせれば、「んぎ」と変な声で鳴かれた。
しかしそんなことは気にならないくらい、己の顔面が熱くて堪らない。鏡なんてなくても分かる。私の顔はきっと真っ赤なのだろう。月明かりしかない路地裏だから、見られたところでこの男は気付きもしないだろうけれど、見られる恥ずかしさとやらはなくならない。
何だ。何なんだ。
へにゃりとだらしなく緩んでいた横顔も、赤く染まっていた頬も、そうなった原因は私だったっていう事なのか。
ゆるふわ皮かぶり女と話していたから、ではなく、私のことを話していたから、って、いう。
「……く、そ、」
「みっ……ひゃん……?」
「ごめん」
「え」
「八つ当たり、だった」
「ん、え……?」
っだから! 嫉妬! したの!
「っ、」
「みっちゃんっ」
叫んだ瞬間、顎を持ち上げていた手を掴まれ、引き寄せられた。