午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、

 するりと巻き付いたふたつの腕。さっきとは違って、余裕でもあるのか絶妙な力加減で抱きしめられて、しかし文句は言えず、ぐぎぎ、と口の中だけで唸る。

「嘘でしょ……夢みたいだ……みっちゃんが嫉妬してくれるなんて……!」
「……する、よ、そんなの、」
「だって、だって……ぼ、僕だけだと思ってた。みっちゃんの周りにヤキモキして、みっちゃんが見てる全てに嫉妬してるの、そんなの、僕だけだって、」

 ぐすりと鼻をすする音に混じるのは、誤魔化しようがないくらいに震えた涙声。
 そんな泣くほどのことじゃないでしょうよ、と。すごく恥ずかしいことではあるけれど、この雰囲気にあえてのまれて、抱きしめ返してみようか。

「さっ、さっきもさ、公園で……みっちゃんの、隣に座ってた、あいつ」
「……ん?」
「あいつに、告白されてたよね? でも、断らなかったのは、どうして?」

 なんて乙女な思考は、秒で砕け散る。

「ねぇ、みっちゃん」

 僅かに()いた、互いの距離。
 くてり、わざとらしく首を傾げた来栖厳武は、にっこりと口角の上がったその唇を、ゆっくりと私の耳へと近付けてきた。

「僕、もう我慢しなくていいよね?」


 ー終ー
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