午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、
「あ、待ってよ、みっちゃん」
投げ掛けられた言葉には答えず、男の前をさっと通り過ぎる。「待ってよ」などと言いながらも、易々と追い付いて、隣に並んで、「今日は学校どうだった?」だとか「変な男に言い寄られてない?」だとか、へにゃへにゃと笑いながら聞いてくるこの男の神経の図太さをこれまでに何度疑ったことだろう。
目下、変な男に絶賛付きまとわれ中ですが、何か。
なんてことを、もちろん最初の頃は言っていたのだけれど、効果はないので早々にやめた。「ごめんね、これはやめられないや」と小首を傾げられ、その首を本気でへし折ってやろうかと思ったのは、かれこれ二年くらい前だっただろうか。
「ねぇ、みっちゃん」
返事など一切していないのに、めげもせず、ひたすらに話しかけてくるこの男、来栖厳武は、私や私の家族が住んでいる家の、隣に建っている家に住む、私を含め、来栖家の皆さんまでもがそうだと認識している、私のストーカーだ。