午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、

 事の発端は、父が今の場所に家を建ててしまったことに他ならないだろう。私が産まれる少し前に完成したその家に、産まれたばかりの私を連れて帰れば、そりゃご近所さんは黙ってなんていないわけで。特にお隣の来栖のおばさまには、「やーん、女の子はやっぱり違うわ! 可愛い! 可愛いの暴力ね!」とたいそう可愛がられた。否、今もたいそう可愛いがられている。
 つまるところ、それが運の尽きというやつだったのだろう。
 来栖家四兄弟の末っ子、来栖厳武は私より四年ほど先に産まれた男の子だったけれど、のんびりでおっとりとした性格だったのでよく遊ばされていた。それ(ゆえ)の、一種の刷り込みのようなものだろうと私は思っている。成長し、保育園に通うようになれば、おままごとという遊びを覚え、それを四つも上の男の子にしようと強要していた私。その延長で「大きくなったら結婚しようね」だとか、そんなものは誰しもが一度は吐いて捨てる羽毛よりも軽い言葉だろうに、(くだん)の男、来栖厳武は未だにそれを持ち出してくる始末。

「あ、もう、家に着いたね、みっちゃん」
「……」
「もう少し、みっちゃんと一緒にいたいけど、みっちゃん、部活で疲れてるもんね」
「……」
「ね、寝る前に電話してもいい?」
「……」
「……ダメ? そっかぁ……残念」
「……」
「みっちゃん」
「……」
「今日こそ、受け取って欲しいな。僕の気持ち」
「……」
「好きだよ、みっちゃん」

 末期だと思う。
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