午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、
シャッター横の路地裏で、
え、あ、う、みっ、ちゃん!?
と、近所迷惑でしかない叫び声を上げた男を捨て置き、知らぬ存ぜぬ顔で帰宅したのがおよそ二ヶ月ほど前の話。
花を受け取るか、受け取らないか。
違いなんてものはそれだけで、花を、あの男の気持ちを、受け取ったからといって劇的に何かが変わるなんてことはないだろう。
「………………は?」
なんて思っていたのも、だいたい、二ヶ月前までの話。
一度、花を抜き取ったこの瞬間から私とこいつは、だとか、脳みそがそれを認識してしまえば、もうダメだった。
朝起きた瞬間から、授業中も、休み時間も、部活中も、寝る瞬間まで、頭の中は来栖厳武で埋め尽くされる始末。文字通り、寝ても覚めても、だ。くそったれ。
認識。
漢字ならば二文字。ひらがなであれば四文字。たったそれだけのものに、こうも振り回されるとは予想外もいいところ。とはいえ、悪い気はしなかった。
私がこうなのだから、あんなにも私を求めてくれていたあいつは私以上なのだろうなと思えたからだ。
しかしかなしかな。
花を受け取った翌日には、何ら変わらぬ様子の来栖厳武に私の予想など完全に外れていたことを知らされ。
「えぇ~そうなの? 何それぇ~来栖くんかわいい~」
「え、いや、そんな、」
そして本日、お付き合いというものを始めておそらく二ヶ月目となる今日、視線の先でイチャついているとしか思えないふたつの後ろ姿を見たこの瞬間をもってして、あの日、私が吐き捨てたセリフが現実のものとなる。