午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、
来栖くん。
甘ったるい声でそれを吐き出しながら、べたべたと隣に立っているそいつに触る女のことを私は知らない。
しかし、触られているそいつはその女のことを知っているのだろう。女の方へと視線を向けた際に向けたそいつの横顔は、へにゃりとだらしなく緩んでいるだけでなく、頬が赤く染まっていたから。
「………………は、」
短い息と共に、短い音が漏れた。
いや、触るなよ。
つうか、触らせるなよ。
ぐにゃりと胃袋が捻れたのかと思うぐらい、吐き気がした。
何。その顔。
頭の中に産まれたそれに、はっとして、要らぬことを口走らないよう慌てて口を引き結ぶ。
顧問の体調不良により急遽部活が休みになったからバイト中であろうあの男を驚かせてやろう、だとか、そんな乙女な思考、トイレに流せばよかった。
「って、あれ? みっちゃん?」
「……来栖くんの知り合い?」
なんて思っても、後の祭り。
背後にいた私の気配に気付いたそいつらは、身体ごとこちらへと向き直った。