午後八時十七分、シャッター横の路地裏で、

「き……?」

 嫉妬。
 そんな感情を抱いた己が、バカみたいに気持ち悪かった。それに対して、つい、言葉がこぼれ落ちてしまったのだけれど、どうやら目の前の男と女は、そうとは思わなかったらしい。

「きしょい、ですって。来栖くん」
「……き、しょい、」

 イチャつく。
 それ以外の言葉でこいつらの状態を表す言葉があるのならば、誰か、教えてくれ。

「ねぇ、みっちゃん」

 諭すような声色で呼ばれた、あだ名。
 親ですら呼ばなくなったそれを未だに呼び続けているこの男は「きしょい、じゃなくて、気持ち悪い、でしょ?」とでも言うつもりなのだろう。

「きしょい、じゃなくて、気持ち悪い、でしょ?」

 一字一句(たが)わなかった自分があり得なくて、また、吐き気を覚えた。
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