喧嘩最強男子の溺愛
◎ 第一章 海人くんとの出会い
桜の花びらが舞う近所の公園。

私はベンチに座り満開の桜を見上げていた。

私の居場所はこの公園だけ。


去年のクリスマスにお母さんが初めて男の人を家に連れてきた。

「帆乃香(ホノカ)、紹介するわね。この方は竜也さん。お母さんの職場の上司なのよ。今日から時々遊びに来るけど、よろしくね」

お母さんの職場の上司って、クラブのマネージャーか経営者でしょ?

物は言いようだよね。

お母さんはお父さんと離婚してからずっとクラブでホステスとして働いている。

私に気を使っていたのか分からないけど、今まで男の人を作らずにいたお母さんが初めて私に男の人を紹介してきた。

夕方から朝まで休みなくお店に出て、私のことを育ててくれたお母さんにはいつも感謝している。

感謝しているけど、友達にはお母さんの仕事のことを言ったことが無い。

心のどこかで隠したいと思っている。

毎晩濃い化粧をして、キツイ匂いの香水をつけて。帰ってくるとお酒に酔っていて。

本当はそんな仕事を辞めて欲しいけど、生活の為だから仕方がないってお母さんは言う。

私が早く仕事をすればいいんだ。高校を卒業して就職すればこんな生活から解放されるのかな。

その日から頻繁に仕事が終った朝方に一緒に帰ってくる二人。

竜也さんは私に優しく接してくれるけど、その優しさは私に気を使っていることからくる優しさだって知っているから、すごく自分の家が居心地悪くて。

学校という逃げ場があって良かった。

学校へ行く朝の時間にお母さんと竜也さんが帰ってくるから顔を合わせることはほとんどないし、夕方も学校から帰ると二人は仕事へ出た後か、二人が遅出の時は私が公園で時間を潰してから帰宅するので、会うこともない。

冬休みに入ると、竜也さんが家に来ている時はなんとなく居づらくて 「図書館で勉強してくる」 と嘘をついて、駅の側にある公園で過ごすようになった。寒かったけど、家にいるよりもここの方が良かった。

早く自立したいって思う。そして、お母さんと竜也さんは私に遠慮することなく一緒に暮らせばいい。


お母さんが竜也さんを連れてきてから初めての春休み。

友達と遊びに行くときはいいけれど、何も用事が無い時は自分の部屋に閉じこもり、朝帰りして眠っている二人を起こさないように過ごしている。

家にいるのが限界になると、この公園に来て今が満開の桜を眺めるのが春休みの日課になりつつあって。冬休みの時のような寒さが無いだけ、この季節は過ごしやすい。
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