喧嘩最強男子の溺愛
◎ 第六章 蒼汰くんの正体
翌朝
学校までの電車が来るのをホームで待っている時、昨日のことを考えていた。
昨日は島田くんに優しくしてもらって、島田くんのことを色々知れて、海人くんとも遊べて。
楽しかったはずなのに。
最後の最後で変な別れ方をしてしまったことを、後悔してる。
だからって謝るのもどうなんだろう。
いっそのこと島田くんが私から距離を取ってくれたらいいとも思う。
朝の電車には島田くんが乗っている。
島田くんがどの車両に乗っているのか分からないけど、今朝は顔を見たくないな。
ホームに滑り込んできた電車のドアが開くとすでに電車に乗っていた蒼汰くんの姿が現れた。
蒼汰くんと目が合って、小声で「おはよう」と言いながら片足を電車に乗せた時、蒼汰くんが私の手を掴み、私を電車から降ろした。
「えっ? 蒼汰くん?」
そのまま私の背中で電車のドアが閉まり、私たちが向かうはずだった方面へ電車は走り出した。
「ご、ごめん帆乃香ちゃん。電車降りちゃった。」
「どうして? 蒼汰くん、どうしたの?」
「どうしても帆乃香ちゃんと話がしたくて。電車に乗っているだけの時間では話ができないから」
蒼汰くんはそう言いながらどこか淋しそうな目をしていた。
「蒼汰くん、どうかしたの? 何かあった?」
「えっ? あ、うん。別に何もないよ。ただこうして会って、顔を見て話がしたいと思ったんだ」
蒼汰くんに電車を降ろされてしまった時点で遅刻は確定していたから、私は慌てても仕方ないと割り切った。
「うん。今日は私も学校へ行くのが少し嫌だったから、少しくらいサボってもいいかな」
そう、隣の席の島田くんと会うのが少し嫌だったから。
昨日、家の事情を知られてしまって、島田くんは私を見下すんじゃないか。
そんな風にしか考えることができなかったから。
島田くんは私を助けてくれた優しい人なのにね。
私って、ひどい女だよね。
「へぇ、帆乃香ちゃんってそんなところがある子なんだ?」
「こんなことするの、初めてだよ。蒼汰くんは遅刻しても大丈夫なの?」
「だって俺が帆乃香ちゃんを引き留めたんだよ。俺の心配はしなくて大丈夫だから。あ、でも友達には連絡しとくから、ちょっとメールだけしていい?」
「私も友達にメールしとくね。多分心配するから」
「帆乃香ちゃん、その友達って。昨日の朝の男の人?」
「違うよ! あの人とはただのクラスメイトなだけだよ」
「そっか。昨日仲良さそうに電車を降りていったから、少しやきもち妬いた」
そう言いながら蒼汰くんはお友達にメールを打っている。
「この駅の近くに公園無かったっけ?」
携帯を仕舞いながら蒼汰くんがそんなことを言ってきた。
「近くに公園あるよ。良く知ってるね」
「ああ、前に一度来たことある駅だからね。その公園に案内してよ」
あまりあの公園には行きたくなかったけど、蒼汰くんが一緒だし、今はまだ朝だし。
何も起こらないと思って公園まで蒼汰くんを案内した。
平日の朝の公園はとても静かで。公園には誰もいなかった。
私たちは公園のベンチに並んで座って。
蒼汰くんはメールに返信があったのか、携帯を見て口元が笑っていた。
「帆乃香ちゃんの弟って何年生なの? まだ小さいよね?」
えっ? 蒼汰くん、何を言っているの? 私、弟なんていないのに。
「私に弟? えっと、誰かと勘違いしてないかな?」
「この公園で一緒にいたよね。帆乃香ちゃんと弟。あの時のこと、覚えてない?」
「あの時? 蒼汰くん、何の話か分からないんだけど」