喧嘩最強男子の溺愛
郁人のことが好きなんだって自覚してから何日か過ぎた。
学校では『島田くん、上野さん』って呼んでいるのに、学校を出た瞬間に『郁人、帆乃香』と無意識に呼び方を変えたりして。
そんな些細なことがとても嬉しくて。
でも、私と郁人の間にはそんなこと以外、特に何も進展が無い。
私が郁人への気持ちを打ち明けていないんだから、進展なんてあるわけがないよね。
席替えで今まで隣の席だった郁人とは3列離れてしまったから教室の中で話をする機会もほとんど無くなってしまったけれど、相変わらず帰りは一緒に帰ってくれている。
私は学校から帰る時間が一番好きになっていた。
その一方で毎日帰りに送ってくれているのが郁人の負担になっているんじゃないかって思うのも事実で。
郁人の脅しが相当効いたのか、あれから蒼汰くんには電車でも会わないし、一度も見かけない。
もう蒼汰くんに関しては心配ないんじゃないかな。
それに郁人はバイトしているって言っていたのに、そのバイトも私を送ってくれているからあまり行けていないみたい。
本当は一緒に帰りたいの。
でも、私の都合ばかりを押し付けていてはいけないと思っていて。
そして今日も2人で学校から帰る。
私は思い切って郁人に話を切り出した。
「ね、郁人。もう蒼汰くんたちは私に会いに来ないと思うんだよね。だからさ・・・」
「だから、なに?」
「だから。あの。もう大丈夫だよ。私、ちゃんと気を付けるし」
「帆乃香、何が言いたいの? 何がもう大丈夫なの?」
急に不機嫌そうに話す郁人。
「私と帰ること、郁人の負担になってない? 郁人の時間を奪ってるよね」
「帆乃香はそんな風に感じていたの? 俺はもう必要ないってこと? いいよ。明日からは別々でいいんだな?」
冷たい言い方をする郁人が、少し怖い。
「ううん。別々に帰るのは、寂しい。けど・・・」
「じゃ、そんなこと言うなよ。俺だって、寂しくなるだろ」
「それって、どういう・・・」
「いつも側にいる人が急にいなくなってみろよ。俺だって海人だってもうそんな思いはしたくないんだよ」
「郁人と海人くんって、なにかあったの?」
「ああ。今日は少し俺と海人の話を聞いてくれるか?」
「うん、もちろんだよ」
私たちは駅を降りて、あの公園のベンチに座り郁人の話を聞くことにした。