喧嘩最強男子の溺愛
「俺の親父がさ、色々な業種を経営しててさ。いつも忙しくしてるんだよ。その忙しい親父の片腕として母親も働いていたんだ。母親は海人を生んですぐに仕事に復帰して、結局子育てと仕事を上手く両立できなくてさ。精神的に病んでしまって」
「そうだったの。ごめんね、全然知らなくて。お母さんの具合は良くなったの?」
「いや。今、母親は自分の実家に戻って静養している。俺も海人ももう何年も会っていないんだ。会いに行っても俺たちの存在を拒否してさ。顔を見せると症状が悪化するからって、会わせてもらえてない」
「じゃ、海人くんはお母さんの愛情を知らずに育ったってこと? 郁人も、小学生の頃からお母さんに会ってないの?」
「まあ、そう言うことになるな」
郁人と海人くんの寂しさを思うと悲しくなる。
2人はどれだけ寂しさを抱えて過ごしてきたのよ。
「でもな、親父のお姉さんが色々と俺たちの面倒を見てくれてたから、殺伐とした家庭じゃなかったよ。この前の電話の相手、香織さんって、覚えてる?」
「うん、郁人の彼女かと思った人だよね?」
「ははっ、香織さんは俺のおばさんだから。どんな勘違いなんだか」
「そっか。ごめん。酷い勘違いだね」
郁人に海人くん。
2人からは全然そんな事を感じなかったけど、小さい頃から大変だったんだね。
そんな郁人の寂しさを分かってあげられなくて。
もう一緒に帰らなくてもいいなんて言ってしまって。
「郁人からもう一緒にいられないって言われるまで私からは絶対に離れるなんて言わないよ」
ずっと、許されている間は側にいてもいいんだよね?
「当たり前。帆乃香は俺が守るって言ったでしょ」
「うん。変なこと言ってごめんね」
「俺、この話したのって帆乃香が初めてだ。帆乃香に偉そうに友達に悩みを話してみたら、って言ったのにな。俺も誰にも話せなかったってことだよな」
「いいじゃない。私が聞くよ。良いアドバイスを期待されても困るけど、それでも郁人の力になりたいもん」
「やっぱり帆乃香って優しいな」
「だって、郁人は私のヒーローだし、私の恩人だもん」
「それだけ?」
「ん? もっと言って欲しいの? 欲張り!」
「ふっ、じゃいいよ。でも、どうして帆乃香には話せるんだろうな。弱いところを見せるなんて、かっこ悪いことなのにな」
「私は聞かせてもらって嬉しいよ。強い郁人も、弱い郁人も、どちらも本当の郁人でしょ? それに、私だけが弱いところを見せてるのって・・・ちょっと悔しいし」
「ははっ! 悔しいってなんだよ。面白いな帆乃香。でも聞いてくれてありがとう」
「うん。早くお母さんの病気が良くなるといいね」
私だけじゃない。郁人も悩みはあるんだ。
私が郁人に悩みを打ち明けて気持ちが軽くなったように、郁人の気持ちも少し軽くなっていたらいいな、私なんかでも郁人の力になれていたらいいなって思った。