喧嘩最強男子の溺愛
≪帆乃香、まだ起きてる?少し話せないかな?≫
一体、郁人は何がしたいの? 私が何も知らないと思っているからこんなメールしてくるの?
「おい、上野。返事してやれよ。ちゃんと島田と話せって」
「やだ。郁人と話すことなんて何もない」
「あーー! じれったいな。お前らは。ちょっとスマホ貸せ!」
そう言って奥原先生が私のスマホを奪って、何やら文字を打ち込んでいる。
「ちょっと、先生! 何してるの? スマホ返して!」
私は先生からスマホを受け取ると、先生が何を操作していたのか確認した。
≪ロビーにいるからすぐに来て≫
郁人に送っている。しかも既読になっている。
やだ。郁人がここに来ちゃうかもしれないじゃない。
「先生、ひどい! 郁人が来ちゃうでしょ。私、部屋に帰る」
「待てって、上野。少しでいいから島田と話せよ。部屋に帰るのは俺だから。じゃーな」
「だめ! 先生もここにいて」
私は先生が帰らないように先生のTシャツの裾をぎゅっと握って動けないようにした。
「帆乃香? あれ? 奥原先生も?」
郁人が来ちゃったよ。先生、どうしよう。そんな不安な目で先生を見る。
「上野、Tシャツが伸びるだろ、手を離せって」
「やだ、やだ。先生行かないで」
そんな私と先生のやり取りを見ていた郁人が、
「なぁ、2人で何やってんだよ」
って、すっごく低い声で言う。
郁人の声にビクッとして、思わず先生のTシャツから手を離す。
「島田、先生は何も関係ないからな。たまたまここで上野に会っただけだ。じゃ、あとは若い者同士で仲良くやれよ」
そう言って奥原先生はいなくなった。
奥原先生が去ると、ロビーには私たちだけが残されて。
心の中とは正反対に、とても静かな時間が流れていた。
「郁人・・・あの」
「帆乃香がここに来いって言ったんだろ。先生と仲良くしてるところを俺に見せたかったのかよ?」
「ち、違うよ。郁人が話したいって言うから。何を話されるのか怖かったんだもん。だから先生をつかまえてただけだもん」
「なんだよ、怖いって。俺は帆乃香と話がしたいと思っただけだろ」
「何の話? いやだよ。私、まだ郁人の側にいたいもん。いやだ! 聞きたくない!」
私は両耳を塞いでソファーに顔を埋めた。
「一体帆乃香は何を言ってるんだよ? 俺の側にいたいの? じゃ、ずっといればいいだろ」
「なんでそんな無責任なこと言うの」
「ちょっと帆乃香、俺を見て。なあ、ちゃんと俺を見て話しをして」
郁人は私の隣に座り、耳を塞いでいる私の手を耳から外し、
「俺を見たくないなら、そのままでいいから聞いて」
「・・・・。」
「さっき、谷口さんに呼び出されて話をしたんだ。帆乃香が気になっていると思って、そのことを言いたかった」
「谷口さんに告白されたんでしょ?」
「ああ、その通り。でも断ったから。俺、好きな人じゃないと付き合うってできないから」
そうやって私にも遠回しに付き合えないよって言ってるんだね。
郁人の好きな人は、冬に出会った人。
それは私じゃない。