喧嘩最強男子の溺愛
こうして一泊二日の勉強合宿が無事(?)終了して、奥原先生の総括でも英検に向けた勉強に力を入れるようにとの話が出た。
皆がホテルから帰る準備をしていた時に、
「上野、ちょっと話いいか?」
奥原先生に呼び止められて、先生のテーブルに向かう。
「先生、何でしょうか?」
「昨夜のロビーでの事だけど。俺たちが盗み聞ぎしてたのはマジで内緒にしておいてな。俺の教師生活はここで終わらせるわけには行かないんだ」
「ぷっ! 先生大袈裟だよ。言わないよ、そんなこと。それより先生の話し方が・・・。あははっ、先生っぽくないし」
「それより、島田と上手くいったみたいで良かったな。どうしてあんなに島田が分かりやすく上野に接していたのに、上野は気付かなかったんだろうなぁ」
「全部先生のおかげだよ。先生、どうもありがとう。先生が郁人に送ってくれたメールが縁結びだったよ」
奥原先生は少し照れたようにして、
「ま、これから先も仲良くしろよ」
って応援してくれて、昨夜と同じように頭をポンポンとしてくれた。
ホテルからの帰り道、郁人が自然に手を繋いで隣を歩いてくれる。
郁人とは20センチ位の身長差があるから、郁人と話す時、顔を見る時は少し上を向いて。
「帆乃香、さっき奥原先生に何を言われてたの?」
「先生がね、郁人と仲良くしろよ、って」
「あの先生、なんで俺たちのことをそんなに気にしてんのかな」
「あー、それはきっとあれだよ」
谷口さんの告白を奥原先生も一緒に聞いていたなんて、郁人には絶対に言えない。
「きっと、何?」
「えっとね。昨日のロビーでね。郁人が来る前に奥原先生に郁人の話をしてたから。だから気にしてくれてたんじゃないかな」
「ふーん、何かを帆乃香が隠してるっぽいけど。いいよ、そう言うことにしておくよ」
私はこれ以上質問されないように急いで話題を変えた。
「ね、郁人。今日は海人くんって何してるのかな?」
夏休みに入ってから一度も海人くんに会っていないから、会いたいなって思っていたところだし。
「海人? さぁね。多分、空手に行ってるんじゃない?」
「海人くんも武道やってるんだ! 島田家は凄いね、兄弟で武道を習うんだね」
「あれ? 俺がやってたこと、帆乃香知ってたっけ?」
「ん? あれ? なんか知ってたよ」
「そっか。俺、話した覚えないけどな」
「そうだ! 郁人は色々な武道を習得してるから喧嘩も強いんでしょ? それ、蒼汰くんに聞いたんだった」
「はぁ? なんでアイツから聞いてんだよ。帆乃香ぁ、本当はアイツのこと、好きだったとか言うなよな」
「ふふっ。それは、どうかな」
郁人はそれまで繋いでくれていた手を解き、私から顔を背けた。
・・・もしかして、妬いてくれてる?
やだ、顔がにやける。思わず声が漏れてしまった。
「郁人っ」
私の声に反応する郁人。
「帆乃香のバカ! 俺にやきもち妬かせるなって」
そう言いながら、また手を繋ぎ直してくれる。
「うん、ごめん。冗談だから」
前に思っていたこと。いつか郁人が私にやきもち妬いてくれたらいいのになって。
こんな日が来るなんて。
夢を見ているみたい。