喧嘩最強男子の溺愛
◎ 第二章 蒼汰くんと島田くん
新学期の朝、その日の朝も同じ時間、同じ電車の同じドアの前。
イヤホンで音楽を聴きながら学校へ向かう。
これが2年間ずっと変えずにしてきた私の登校風景。
いつもと違うのは、今日から高校3年生になる私は仲良しの友達と同じクラスになれるかな? なれるといいな、ってドキドキしていたこと。
昨日公園で起こった出来事は、心の奥に封印して。
学校の最寄り駅に到着し、同じ制服を着た高校生たちが電車から降りる。
その人の流れに私も入って歩き出した時、誰かに肩を叩かれた。
一瞬ドキッとした。昨日の公園で会った3人組かと思って。
恐る恐る振り返ると、私の肩を叩いたのは見たことのない男の人。
この数駅先にある学校の制服を着ていた。
髪の色は茶色。制服のネクタイは緩めに結んでいて決して真面目な高校生とは言えない人だったから昨日の3人組かと思って私は一瞬身構えた。
その男の人と目が合うと目を細めてニコッと微笑んできた。
その目に怖い光が無かったことに少しほっとして、私はしていたイヤホンを耳から外し、
「はい」
と返事をした。
その男の人は顔を真っ赤にして、
「あっ、あの。突然ごめんなさい。俺と、付き合ってもらえませんか」
えっ? 私は突然の告白にびっくりして。声が出なかった。
電車を降りて歩いている同じ高校の生徒たちが周りにはたくさんいて。
私たちが立ち止まっているから改札へ向かう人の流れを邪魔してしまっている。
私たち、注目されてるよね?
君も顔を赤くしてるけど、私も真っ赤になってるんですけど。
この場をどうしていいか分からずその人から目を逸らした時、同じ高校の男子と目が合った。
助けて!と、目で訴えたけど、脇を素通りされてしまった。
「・・・・・。」
告白した方もされた方も、気まずい沈黙で。
電車から降りた人の波は改札口へと消えて行き、ホームには私たち二人だけが残された。
昨日の3人組の顔なんてまともに見ていないから、どこかで会っても私はきっと気付かない。
多分あの3人も私の顔なんて覚えていないだろうし。
きっとこの人は初めて会う人。そう思ってもやっぱりどこか怖くて恐る恐る聞いてみた。
「あ、あの。どなたですか?」
「俺、有村蒼汰(ソウタ)って言います。南高の3年です」
「えっと、はじめまして? ですよね?」
心の中で昨日の人たちじゃありませんように、と祈った。
「はい。俺、ずっとあなたが気になってて。学校は分かっても名前も学年も知らないから。もし、今日電車に乗っていたら告白しようって決めてたんです」
「どうして、今日?」
「もしあなたが俺の一つ上で、卒業していたらもうこの電車には乗ってこないでしょ。もし今日乗っていたら、って自分に賭けてて」
ああ良かった。本当に知らない人だった。私は安堵して少し涙ぐんでしまった。