喧嘩最強男子の溺愛

倒れた男と私の目の前にはいつの間にか郁人が立っていて。

目に見えないほどの速さで男のみぞおちを拳で殴ったようだった。

郁人は息を切らすこともなく平然としていて、一方殴られた男は立つこともできず、痛みで顔が歪んでいる。

こんな状況の中、最初に声を発したのは郁人の元カノだった。

「郁人、久しぶりね、2年ぶり? 随分変わったね。あの頃よりかっこ良くなってるじゃない」

はい? この女の人は何を言っているの?

自分の彼氏が殴られて倒れているのに、どうして彼を助けてあげないの?

そんな元カノのことを郁人は完全に無視して、私と海人くんの様子を見て、

「帆乃香、大丈夫だった? 遅くなってごめんな。海人はちゃんと帆乃香のこと守れたのか。偉いぞ海人。ほら綿あめ。店まですげー遠かったぞ。海人に1つ貸しだからな」

「郁人ぉ。怖かったよ。海人くんにこれで2度も怖い思いさせちゃったぁ。ごめんねー」

「もう大丈夫だから。帆乃香、ありがとう」

郁人はそう言いながら私と海人くんをギュッと抱きしめてくれた。

うずくまっていた男が、そんな私たちを見て

「お、い。あまり調子に乗ってんじゃねえぞ」

と、言いながらやっと立ち上がった。

そんな男に郁人の元カノが、

「あなたはちょっと黙っててよ。ね、郁人、これから一緒に花火見ない? 2年前にできなかったこと、しようよ」

ここにいる元カノ以外の全員が呆気にとられているのに元カノは全然気付かなくて。

聞いているこっちが悲しくなってきた。

「誰だ、お前」

郁人が元カノの言葉を遮り、そしてとても冷たい目で元カノを見下ろしている。

「ちょっと、郁人! 私よ。前に付き合っていたじゃない」

「はぁ? 知らねぇな。うざいからその男と消えろよ」

郁人は汚いものを見るように元カノとその彼を睨み、

「帆乃香と海人、もうすぐ花火の時間だから行こう」

そう言って私と海人くんの肩を抱いてこの場を立ち去ろうとした。

怒りが収まらないのは元カノの彼で。

郁人の肩をグイっと掴み、

「ちょっと待てよ! このままで済むと思うなよ!」

そう叫んで郁人に殴りかかってきた。

それを郁人は簡単にかわし、お返しにもう一度、今度は片足でその男のみぞおちを蹴った。

「さ、行こうか」

郁人は何も動じることなく、私たちの肩を抱いて歩き出した。

その後の元カノと男のことはどうなったか分からないけど、多分、別れただろうな。

あの彼女は最低な人だと思うもん。

って言うかさ、郁人って本当にあの最低女と付き合ってたの?

郁人って女の人を見る目が無いよね?

・・・ってことは、見る目のない郁人が付き合っているこの私もダメ女?

やだ! やめてよ郁人!

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