喧嘩最強男子の溺愛

そんな涙目の私を見たその男の人が、

「ご、ごめん。突然すぎたよね。驚かせてしまってごめんなさい」

そう言って自分の顔の前で両手を合わせ何度も謝っている。

「ちっ、違うんです。安心したって言うか。良かったです」

「えっ? 良かったってどういう意味? 俺、受け入れてもらえたの?」

目じりの涙を指ですくいながら、勘違いさせてしまったことを謝った。

「ごめんなさい、受け入れたとかそう言うのではないんですけど。えっと、どう言ったらいいのかな。あ、私も同じ高3です」

支離滅裂な返事をしてしまった気まずさでその男の人から目線をずらすと、ホームに設置してある時計が目に入った。

その時計の針は8時25分を指していた。もう駅を出ないと学校へ間に合わなくなる時間だ。

「あの、もう私行かないと。有村さんも遅刻しちゃいますよ」

「俺は次の電車が来るまでどうしようもないから」

そうだよね。有村さんの学校はこの駅から数駅先の学校。

ここに有村さん一人を残して、私だけ学校へ行くわけにはいかないよね。

「次の電車が来るまで私も一緒にいますね」

私は、有村さんを一人残して去ることができなかった。

「でも、あなたが遅刻しちゃう」

「いいですよ、少しくらい遅くなっても」

徐々に次の電車に乗るための列ができ始めてきたので、二人で駅のホームの奥へ移動する。

「えっと、私は上野帆乃香って言います」

私が自己紹介をすると、有村さんは小さい声で何かを呟いた。

『マジか。やっぱり昨日のホノカって。同一人物だったのか』

私はそれが聞き取れなくて、

「えっ? 何て言いました?」

「ううん、なんでもないよ。上野帆乃香さんね。覚えました。どうもありがとう」

「同級生でしょ。敬語はいいですよ、いつも通りで」

私は外見とは違って優しく話しかけてくれるこの人の本当の姿が見たかった。

すると有村さんは、頭を抱えて

「はぁー。めっちゃ緊張した。マジ心臓ヤバい」

なんて、普通の高校生になった。その変わりようがおかしくて、

「緊張、してたんですか?」

そう言って私は笑った。そして、

「どうして私と付き合いたいなんて・・・。」

「上野さんのこと、電車でいつも見てたから。かわいいなって思ってた」

私は自分で理由を聞いたくせに、有村さんのストレートな言葉に恥ずかしくなって。

顔を赤くして俯いた。

「俺のこと、見たことない? 最近、会わなかったっけ?」

「えっ? 電車ではいつも音楽を聴いていて、人の顔って見てないんです。だからごめんなさい、有村さんの存在は気付いていなかっ・・」

私の声をかき消すように「次の電車がまいります」というアナウンスが流れたから、話の途中だったけど、

「それじゃ、有村さん。私、行きますね」

「えっと、返事は? それか連絡先、聞いてもいい? あ、付き合ってる人がいるとか?」

「明日も同じ電車に乗ります。返事はその時でいいですか? それじゃ、本当に遅刻しちゃうから。ごめんなさい」

私は目の前の有村さんのことよりも、新学期早々遅刻してしまわないか気になってしまって。

急いでその場を後にした。

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