喧嘩最強男子の溺愛
◎ 第十六章 心の隙間?
あっという間に夏休みも終わり、今日から新学期。
結局夏休み中に郁人とデートらしいデートをしたのは花火大会だけだったな。
でも花火大会で郁人と素敵な思い出を作れたし、なにより郁人の元カノがお世辞にも素敵な人じゃなかったから安心したの。
花火大会が終わってからは郁人は受験勉強をしていたから全然会えなくなってしまって。
新学期になれば毎日学校で郁人に会えると思ったらワクワクして、いつもより早く目が覚めてしまって。
学校へ行く準備が早くできたからいつもの電車より1本早い電車に乗ろうと思い、家を出て学校へ向かったんだけど。
この電車に乗ったのが間違いだった。
なぜいつもの電車に乗らなかったんだろうって、後悔することになるなんて。
駅のホームに電車が入ってきていつものドアから乗り込むと、目の前に蒼汰くんが立っていた。
「えっ? なんでこの電車?」
蒼汰くんがそう呟いて、どうしていいのか分からない様子だったけど挨拶だけはしようと思って、
「蒼汰くんおはよう」
「お、おはよう」
挨拶を交わすと蒼汰くんは車両の奥の方へ移動しようとしたけど、満員に近い電車の中では自由に動けるはずもなくて。
「蒼汰くん、動くと危ないからそこにいてくれて大丈夫だよ」
人の流れに押されて蒼汰くんと向かい合わせに乗ってしまって。
体の向きを変えたかったけど、私も動けなくて。
顔を下に向けるしかなかった。
「・・・帆乃香ちゃん、ごめん」
「ううん。私がいつもの時間の電車じゃなかったから」
お互いに顔を見ることなく電車に揺られていると急に電車が激しく揺れて、手すりやつり革につかまっていなかった私は倒れそうになった。
「キャッ!」
ここで倒れたら周りの人に迷惑掛けちゃう。
多分倒れてしまったら立ち上がるのも大変。
でも、つかまるところが・・・・ない。
あ、もうダメだ。倒れちゃう!
私は目を瞑り倒れるのを覚悟をした。
あれ? 痛くないし、誰かが私を支えてくれてる?
私の体は電車の中で崩れることなく、立てている。
「帆乃香ちゃん、大丈夫?」
私を支えてくれているのは蒼汰くんの腕で。
蒼汰くんの片腕に抱かれている格好で支えられていた。
「そっ、蒼汰くん、ありがとう。ごめんなさい、私、重かったね」
謝りながら蒼汰くんから体を離そうとしたんだけど、蒼汰くんの、私の体を抱いている腕の力が強くて、蒼汰くんの腕から抜け出せない。
「あの、蒼汰くん。もう大丈夫だよ、ありがとう」
「帆乃香ちゃん・・・。俺」
「蒼汰くん? あの、腕をはな・・・」
腕を離してって言おうとしたら、蒼汰くんが私の耳元に消え入りそうな声で
「やっぱり好きだ」
って囁いた。
「えっ・・・。蒼汰、くん?」
「ごめん。今だけ。今だけこうしていさせて」
私は頭の中が混乱していた。
とにかく蒼汰くんの腕から離れなきゃ。
「蒼汰くん、ごめん。離して」
私は蒼汰くんの胸を押したけど、蒼汰くんは腕の力を弱めてくれなくて。