そのサキュバスは夢を見る

甘えて…

私が身支度を直しいつも待機している場所へ戻って来ると、もういつもの時間を過ぎているというのに、昨晩の逢瀬の相手だったティト様が待っていた。

彼は私の手をそっと引き、まるで恋人同士のように私に笑い掛ける。

さっきの辛いことは忘れなければ…
私は『サキュバスのナンネ』なのだから…


宿に着いてそれぞれお湯で身体を流したあと、嬉しそうに私に向かい合い、彼は言った。

「今日はね、ナンネに甘えて欲しいんだ。たくさん俺に甘えてみてよ。」

「はい、かしこまりました。」

私はいつものように事務的にそう返すと、彼の横にスッと身を寄せた。

…確か前に来たお客様は、こんな感じにしたら喜んでくれたはず…

「『ティト…ねえ、私を抱き締めて…?寂しかったの…』」

きっとこのために彼は私に名前を教えたのだろう。
私は上目遣いで名前を呼び彼を見つめ、そっと手を握る。
すると彼はニコニコと私に笑い掛けた。

「もちろんだよ、ナンネ!」

「『嬉しいわ…ティト、優しくしてね…?』」

フワリと私は笑う。

「俺はナンネが好きだからね、約束は出来ないよ…こんなに可愛いんだから!」

ティト様は嬉しそうに笑い、私を抱き締める。

これはただの演技。
それなのに私の心はだいぶ久しぶりに何だか高鳴った。

今日は辛い出来事もあり、昨晩に彼が優しかったせいかもしれない…

「ナンネは俺に抱かれたいんだね?」

彼がそう尋ねる。
甘えて欲しいと言っているのだから、そうに決まっているのに…

「『そうよ…私を可愛がって欲しいの…』」

目を伏せ恥ずかしそうにする私を、ティト様はベッドに押し倒した。

「あっ…」

「可愛いナンネ…!そっか、それならたくさんしてあげる…!!」

彼は私の着ていたローブをそっとはだけ、全身にキスを落とし、私の唇にも口付けた。

「んっ…」

たったこれだけなのに、私の身体はすぐに火照り始めた。
彼を求めているように、私の身体はビクリと震える。

目を瞑り、私は彼に身を任せる。
こういうときにはお客様のしたいようにしてもらうのが一番。

私は自然と彼に抱き着いた。

「嬉しいよ、ナンネ…!」

彼も自らのローブをはだけ、私に素肌を重ねる。まるで猛る熱が彼の喜びを表しているよう。

私は先ほどあった辛いことが、まるで夢だったかのように今は温かく感じられた。
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