そのサキュバスは夢を見る
『人間らしい』ナンネ
ある、いつものようにダリアの店に行った日の帰り道、あのティト様に出会った。
「ナンネ!」
「…ティト様……」
私が今まで、着飾っていても逢瀬前にお客様に気付かれずに済んでいたのは、日中にはいつも自分が持っている面を着け、顔を隠していたおかげだった。
今日はその面を無くしてしまい、ティト様に見つかってしまった私はどうしていいか分からない。
彼は私に気付くとすぐに駆け寄ってきた。
「ナンネ、今帰り??」
彼は笑って私にそう尋ねる。
確かに私はダリアの店に行った帰り。
しかし、『サキュバスのナンネ』は夜にだけ現れると言われている。私はそれらしく振る舞わなければお客様の夢を壊してしまう気がしていた。
「…帰り…というのは?」
私は恐る恐るだったけれど、感情が出ないよう聞き返した。
彼は何でもないというようにまた笑う。
「ナンネは女の子だからね。お仕事前にお出掛けくらいするでしょう?」
そんなふうに言われたのはもちろん初めてだった。
『サキュバスのナンネ』が昼間に出歩き買い物をする…そんな人間らしい姿など、誰も見たくは無いはず。
さすがに嫌な顔をされると思っていた私は、思わず呆然とティト様を見つめてしまった。
「ナンネは何もおかしい事はしていないよ?そんなに驚かなくても大丈夫だよ。」
彼は私に優しく微笑む。
「ナンネ、今日も俺の相手をしてくれる?」
「はい。」
私は気を取り直し、いつものように事務的に答えた。
彼とともに歩き出し、建物の陰まで来ると、彼は立ち止まった。
「…その前にさ、俺、食事をしていないから、屋台で何か買わせて欲しいんだ。いい?」
「かしこまりました。」
私が頷くと、彼は何かを取り出す。
「はい、ナンネ。」
彼が差し出したのは、キレイな黒い、縁取りの付いた面だった。
「えっ…??」
私は今日、面を無くしたばかり。これは偶然なのだろうか…
「一緒に来てもらうんだから、こういうのを着けていたほうがいいよね。」
「一緒…に…?」
…彼の買い物に私にも、これを着けて付き合ってほしいということ?
「少しだけいいでしょう?ナンネが気にするなら料金に少し、その分を上乗せするよ。はい。」
彼は私にお金を渡してくれる。
「そんな…悪いです、ティト様…!」
私は事務的な対応も忘れ、思わずそう言った。
「優しいね、ナンネ。俺を身勝手な客だと思ってくれてもいいんだよ?でももうナンネは今日、俺のものだから。」
彼は微笑んで、私の顔にそっと面を着ける。
「良かった、ナンネに似合うよ。じゃあこっちだよ。」
そして彼は私の手をそっと引いた。
「ナンネ!」
「…ティト様……」
私が今まで、着飾っていても逢瀬前にお客様に気付かれずに済んでいたのは、日中にはいつも自分が持っている面を着け、顔を隠していたおかげだった。
今日はその面を無くしてしまい、ティト様に見つかってしまった私はどうしていいか分からない。
彼は私に気付くとすぐに駆け寄ってきた。
「ナンネ、今帰り??」
彼は笑って私にそう尋ねる。
確かに私はダリアの店に行った帰り。
しかし、『サキュバスのナンネ』は夜にだけ現れると言われている。私はそれらしく振る舞わなければお客様の夢を壊してしまう気がしていた。
「…帰り…というのは?」
私は恐る恐るだったけれど、感情が出ないよう聞き返した。
彼は何でもないというようにまた笑う。
「ナンネは女の子だからね。お仕事前にお出掛けくらいするでしょう?」
そんなふうに言われたのはもちろん初めてだった。
『サキュバスのナンネ』が昼間に出歩き買い物をする…そんな人間らしい姿など、誰も見たくは無いはず。
さすがに嫌な顔をされると思っていた私は、思わず呆然とティト様を見つめてしまった。
「ナンネは何もおかしい事はしていないよ?そんなに驚かなくても大丈夫だよ。」
彼は私に優しく微笑む。
「ナンネ、今日も俺の相手をしてくれる?」
「はい。」
私は気を取り直し、いつものように事務的に答えた。
彼とともに歩き出し、建物の陰まで来ると、彼は立ち止まった。
「…その前にさ、俺、食事をしていないから、屋台で何か買わせて欲しいんだ。いい?」
「かしこまりました。」
私が頷くと、彼は何かを取り出す。
「はい、ナンネ。」
彼が差し出したのは、キレイな黒い、縁取りの付いた面だった。
「えっ…??」
私は今日、面を無くしたばかり。これは偶然なのだろうか…
「一緒に来てもらうんだから、こういうのを着けていたほうがいいよね。」
「一緒…に…?」
…彼の買い物に私にも、これを着けて付き合ってほしいということ?
「少しだけいいでしょう?ナンネが気にするなら料金に少し、その分を上乗せするよ。はい。」
彼は私にお金を渡してくれる。
「そんな…悪いです、ティト様…!」
私は事務的な対応も忘れ、思わずそう言った。
「優しいね、ナンネ。俺を身勝手な客だと思ってくれてもいいんだよ?でももうナンネは今日、俺のものだから。」
彼は微笑んで、私の顔にそっと面を着ける。
「良かった、ナンネに似合うよ。じゃあこっちだよ。」
そして彼は私の手をそっと引いた。