そのサキュバスは夢を見る

『サキュバスのナンネ』と、魔女の出会い

………

私はたった一人の身の上だった。

まだ何も知らなかった頃に孤児院を出され、毎日町を彷徨ってなんとか生きていた。
毎日小さな仕事をさせてもらいわずかな小銭を何とか稼ぐけれど、皆、ほとんど私のことは見て見ぬふり。


「そばにいて欲しけりゃ、その身体を差し出しな!」

私の身体を服の上から舐めるかのように見る大人たちは、皆一様にそう言った。

その人に良く思ってもらえたら、その人はずっと私のそばにいてくれるはず…

私は求められるがまま、ひたすら必死に相手に合わせた。

私の身体の代わりにその人が私のそばにずっといてくれるなら、私はその人に合わせ続けてさえいれば……

けれども皆、たった一夜の逢瀬だけ。
朝になれば私を泊めてくれた宿から出ていってしまう。
お金だけを置いて…

私は来てくれた相手に合わせ続け、いつしか、『サキュバスのナンネ』と呼ばれた。


誰も私のもとに来てくれない日もある。
お客がお金をくれずに去ってしまった日もある。

別で日雇のお仕事をもらえる日もあるけれど、それでもお金がない日には、私は森の中で食べるものを探した。


その日もお客様が来ないまま夜が明け、森の中で何とか食べ物を探していたけれど、気分が悪くて倒れそうだった。

「あんた、大丈夫!?」

誰も来ない薄暗い森の中でしゃがみこむ私に、そう気遣ってくれたのは魔女のダリアだった。


「……それって身売り!?待って、あんた…まさか何も知らないで……」

ポツリポツリと訳を話した私に、彼女は薬を差し出す。

「すぐに飲みな!」

私は震える手で、差し出された薬を疑うことなく飲み干した。

「馬鹿っ!なんで気を付けないの!!あんた、人間なんでしょう!?身体は軟弱なんだから気を付けないと、死んじゃうかもしれなかったんだから!!」

「…。」

私を叱った相手は久しぶりだった。
いつも相手に要求だけをされ、私を気遣う相手などいなかったのに。

けれど…

「…大丈夫です…私、まだ生きています……でも、助けていただいてありがとうございます…。」

相手に上手く甘えることが出来ない私。
彼女にもらった薬のおかげでなんとか立ち上がり、頭を下げる。

「…この国ではかなり珍しいかもしれないけど、私は魔女。これで少しは楽になったでしょ?たまにうちの店に来てくれたら、あんたの身体に合うような薬を少し安く売ってあげる。」

私は彼女の言葉に申し訳なく思いながら言った。

「分かりました…お金が出来たらすぐ、さっきのお薬の代金もお支払いします…」

すると彼女は首を振る。

「無理するんじゃない!また無茶をしたら、ただじゃ置かないよ!私が助けた命なんだ!!」

「!!」

私の心に響く言葉だった。
私はこの人に命を助けられたんだと心に刻んで…


私はその時から、彼女の店によく行くようになった。
…あなたに会いに来たんだと、甘えられず本当のことを言えぬまま…

………
< 16 / 35 >

この作品をシェア

pagetop