そのサキュバスは夢を見る

魔女の店

「…噂どおり良かったよ、ナンネ。次はどんな君が見られるのかな?また君を求めに来ていいかい?はい、これが昨夜の料金だ。」

かなり羽振りの良いお客様。
私は『普通』に戻り、笑顔でおじ様に対応する。

「もちろんです!おじ様とのこの一夜は、私にとって忘れられないものになりましたわ…!!またきっとどうぞ…!」

形式ばかりの私の言葉にさらに機嫌を良くしてくれるお客様。

「そうかこれが本当の君なのか。素直で愛らしい…!身体もまるで無垢、奇跡のようだ…!」

…人によって雰囲気を変える私に、本当の自分なんてきっと無い。それに、身を売り続けた私の心と身体は、もう…

生きるために…誰かにそばにいてもらうために、私は……

このお客様に気に入ってもらえたらしい。
また来てくれるかは別だけれど。


今日は少し休んでいくよう気遣ってもらえた。
料金を置いて一足先に出たお客様を部屋で見送ると、私はそのままベッドに横になる。

今日はだいぶいい。
時々、私を求めるだけ求め、朝にはお金をを払ってくれないまま姿を消してしまう客がいる。

いつかの蜘蛛の客は、私の身体を糸で縛り上げ、一晩中、細い腕で私を攻め続けた。
そして朝には私をはだけて縛り上げたまま出て行ってしまい、当然料金は払われなかった。
その日は見つかった宿の主人にも、宿代を支払えなかったお仕置きと称して、縛られたそのまま身体を奪われたこともある。

お金をくれない客も無茶ばかりの客も、私にとっては日常茶飯。

私は湯を借りて一息つくと、宿をゆっくりと出ていった。



「ナンネ!今日も『おくすり』??」

「ええ、ください。」

ここは行きつけの、町外れの魔女の店。
他国ではそうでもないらしいけれど、この国で魔女は珍しい。
開いているのが夕刻だけの、若年魔女である彼女、ダリアの自慢の薬を取り扱っているところ。

私にとっての命綱でもある薬を買いにやってきた。

「ナンネは全く…。人間なんだし、人肌恋しかったら早く誰かと一緒になった方が、こんな心配も無いのにね…。って言っても、あんたははぐらかして笑うばかりなんだから…。そんなに世の中に信用が無いの?」

彼女は呆れたように、それでも少し心配そうに、そう私に尋ねる。

「そんなことはないのですが……」

社交辞令のように笑って返す私の様子を見てため息をつく彼女。

「あんたは年頃でこうなのに擦れたとこも見せないんだから、良い相手がすぐにでも出来ると思うんだけど?」

「…こうしなければ生きていけないんですから、そんな娘とずっといてくれる相手なんて……」
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