そのサキュバスは夢を見る

必要としてくれる人を探して

「あ、わたしの〜!」

小さな女の子が泣きながら、私の持っていた人形を見つけ駆け寄ってくる。

私は笑顔を作り、少女の目線に片手で人形の高さを合わせると、その人形の両腕を、もう片方の手でそっと持ち上げた。

少女を待ち望んでいた人形が手を広げ、抱き締めてくれる時を待っているように…

「『私を見つけに来てくれたのね…!待っていたの!もう私を落とさないで?』」

その人形らしく聞こえるよう、少女に向かって人形を喋らせ動かすと、泣いていた少女はパッと花が開いたように笑った。

「わたしのおにんぎょうがしゃべってる…!うん、ごめんね!もうわたし、おとさない!」

私が付いた汚れを落とすように人形を軽く撫でると、少女は私から人形を受け取って抱き締め、笑顔で私に手を振り行ってしまった。

私はまた立ち上がる。


私に、誰か大切な相手を待つ時は来るのだろうか?私を何か必要としてくれるような、優しい相手…
今までにそんな時があったような気もしたけれど、私には思い出すことは出来なかった。

ドキン…

突然私の胸が高鳴った。何故かは分からない。

…あの人形のように私のそばにいてくれる人が、いつか見つかるかもしれない。

私はその後も私が出来ることを探そうと、必要としてくれる人を探そうと街を彷徨った。


『ナンネ…!』

自分を呼ぶ誰かの声が聞こえた気がした。

優しい声で、嬉しそうに私を…

どんなに見渡しても、その声の主は見当たらない。
今しがた聞いたばかりだというのに、どんな声だったのかすらももう覚えていない。

私は喪失感を覚えたまま、隠れ家に戻っていった。



私はあの悪魔の骨ばった腕のどこに、あの温かみを感じたのだろう?
あの悪魔のどこに、あの優しいと分かる、記憶にもないその声を聞ける要素があったのだろう?

いくら考えても、気になるあの夢での私の記憶と辻褄が合わない。

生きるためとはいえ、もうお客様を迎える気にはならなかった。
夢の悪魔に抱き締められたその感覚が、失われてしまうのが何故か嫌だった。

明日からはまた、他の仕事が見つからなければ身を売らなければならない。

私の唯一出来ることだったはずなのに、こんなに他の人に身体を触れさせたく無くなるなんて…


私はダリアに会いに行くことにした。

昨晩の夢や今日感じた感覚のことを相談し、前に提案された、ダリアの店を手伝うことが出来ないか、今更ながら頼んでみる気になったのだった。
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