そのサキュバスは夢を見る

謎の霧と助けの魔女

突然、私の周りに薄い霧が現れた。
苦しくはない。むしろ落ち着いた気分になるような優しいもの。
私の身体だけをゆっくりと取り巻き、優しく包むように…

すると私は押さえつけられた身体が、苦しみから解放されたように軽く感じ、私自身の存在が許されたような気すらした。

そして…

「ナンネ…!?何してるのよ、あんたたち!」

聞き覚えのある声がする。
彼らは私から完全に手を離し、声がする方に顔を向けた。

「っ…外れ森の魔女だ…!!」

獣人の彼女の仲間が怯えたように声を上げる。

声の主は町外れの店の魔女ダリアだった。

「私の友達に、一体何をしてくれてるの!?」

彼女はそう叫ぶと私に駆け寄り、私をそっと抱き起こしてくれた。

「…ダリア……」

「ナンネ…大丈夫…?」

彼女は本当に心配そうに声を掛けてくれた。

「…はい…ありがとう……」

私が返事をすると、彼女は無事を確かめて頷き、周りにいた人たちに向かって言った。

「…私は魔女だよ?寄ってたかって私の友達に痛い目みせようっていうなら、私は黙っていない。」

彼女はさらに周りを睨みつけて凄み、赤い瞳を光らせながら言った。

「そりゃあ、使う必要がなくなった強魔力が錆び付いた私は、いつもは簡易魔法や魔法薬を使うくらいさ。でもまだ、魔物たちを召喚することくらいは出来るんだ。そんなにしたければ私の大事な友達の代わりに、私の召喚した理性も無い魔物たちに、あんたたちの相手をさせようか…?その命尽きるまで、激しく可愛がってくれるかもね…!!」

彼女の言葉を聞いたその人たちは悔しげに顔を歪め、早足に散っていった。


「…。」

皆いなくなり二人きりになると、ダリアは私のそばにそっと座って言った。

「…『恐れられる』ってのも、たまには便利だね。魔族の召喚魔法はこの国じゃ禁止だよ。…怖がらずにうちに来てくれる常連のナンネに、あいつらは…!!」

「…ダリア……」

さすがに泣きそうになる私を、彼女は悲しげな顔で見つめて言う。

「…なんで無理をしたの…?なんで泣き叫ばないの…?怖かったんでしょう??まだあんたは、自分には気持ちがないなんて思っているの…?私は…あんたが嬲り殺されるなんて嫌だよ…」

「…。」

胸がズキリと痛み、私は何も言えなくなってしまった。

いつも笑って迎えてくれるダリアが、私をそんなふうに思ってくれていたなんて知らなかったから…
< 8 / 35 >

この作品をシェア

pagetop