そのサキュバスは夢を見る

『友達』のダリア

「…迷惑だった…?ごめんね、私も友達なんていないんだ。お客だって、はるばる別の国から来てくれる魔族とあんただけ…。この国の人間や獣人なんて、みんな私を怖がっちゃってさ…」

私と一緒…『友達』のいないダリア…

「…こんなに穢れた私を、そんなに心配してくれて…ダリアだけよ…ありがとう、嬉しい…!」

私は自然にそう言う。ダリアは私をしばし見つめると、フッと笑った。

「…あんたは穢れてなんかないわ。一生懸命必死に生きてるんだもの。それに良かった…ナンネ、今は取り繕っては無いわね。そんな顔でお礼を言われるなんてね…」

私はどんな顔をしていたのだろう?
それでも、ダリアの気持ちで自分の心が温かくなっていったのが分かった。

「ダリア…私、あなたが好きなんだわ…愛してる…」

私がそう告げると、ダリアは呆れたらしい。

「…あんたねえ、気持ちは嬉しいけど、そういう言葉は友達に言う言葉ではないわ…愛する相手に言うものよ。ま、私にも愛する相手なんていないけどね。」

「そう…なの…??」

ダリアは少し笑いながらまたため息をついた。


「あ…そういえば、霧……」

突然思い出した、さっき私を取り囲んでいた優しい霧。今はもう、いつの間にか消えてしまった。

「霧??」

「そう。押さえつけられたときに、霧に囲まれて苦しみが紛れたの…何だったのかしら…」

ダリアはうーんと唸った。

「…私には見えなかったよ?弱い魔力は何故か感じたけど、あんたの周りには他に誰もいなかったし…だとしたらあんたを助けるつもりのものだろうしね。あんたのお客に魔族はいなかったの??」

「…いないと思うわ…それに…」

…ダリアの他に助けてくれる相手なんて、もう私には…

「そっか…でもごめんね、私、夜は魔力を高める時間だから…夜は寂しいと言ってるあんたと、夜にずっと一緒にいてあげられないからこんなことに…」

魔族の活動時間は夜。魔女である彼女もそうであり、店が夕刻だけなのは人族でいう『早朝開店』のようなもので、それはこの国のお客様のため。
夜は魔力を高め、魔法を作り出すための時間だからだった。

私はダリアの言葉に首を振る。

「…いいの…私に出来ることは、誰かに一晩の逢瀬でお客様の望む夢を見せることだけ…。『サキュバスのナンネ』だもの…。その代わりに私は、一人で眠らずに済んでいるんだから…。ダリアは私を心配して占ってくれたり、おくすりやお守りを売ってくれるから、これ以上を望んだら…」

「ナンネ……」

ダリアは私を呼び掛けて言い淀んだ。

「もう行くね、ダリア…お客様が待っていてくれるかもしれないし、ダリアももう夜だもの、帰らなくちゃいけないものね…」

立ち上がった私に、ダリアは声を掛ける。

「…ナンネ、もっと頻繁に店に来なさいよ!遠慮することないわ!友達なんだから、あんたが良いときに毎日だって…!」

私は振り返り、返事をする。

「うん…!!」

ダリアの言葉は素直にとても嬉しかった。

私は笑えたのかな…
ダリアに、私の嬉しいという気持ちが届いていたらいいけれど…
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