年上同期から恋人へのロード
【大好きだった先輩】

「牧瀬さん、各部署の経費入力、追加は無さそう?もう数字固めていい?」

管理部の吉田部長は、決算処理を進めるため、各担当者に業務進捗度を確認中である。

上司の吉田部長は、温厚で各部署からの信頼が厚い。
ただ、笑顔の下に隠す鋭い眼差しで、他部署からは「たぬき部長」と言われていることを本人は知らない。

「はいっ、今手元にある請求書は、全て入力しました。あと、他に影響のありそうな経費が漏れていないかも確認しましたが、大丈夫そうです」
「了解、ありがとう!じゃあ、数字固めて決算処理にかかるから、各自宜しく!」
『はいっ!!!』

4月に入り、私が所属する管理部は決算業務の真っ只中。

桜満開でお花見の話題がニュースで流れる中、私達は疲れた体で夜桜を横目に帰路する毎日。
ビルを出てしばらく歩くと、桜並木が夜空の月明かりを浴びて妖艶な姿を見せる。

「今年のお花見もまた見送りだな・・・」
ここ何年もお花見に行けてない。
桜の花びらが散りだすとふと今でも思い出す。
大好きだった先輩と散りゆく桜の木の下で、「いってらっしゃい」と見送った高校2年の春。

そう、それは私の初恋、過ぎ去った日の思い出だった。
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