Cat&Orange
「生活には困らないんだけどな……」

僕はそっと胸元に触れる。胸が何だか苦しくてたまらない。苦しすぎるせいで最近は眠れないんだ。

この街で、僕が隠れんぼをしても見つけてくれる人はいない。誰からも必要とされず、誰にも覚えられず、勝手に朽ち果てていくだけだから。

ブラブラと軽くブランコを動かしていると、ガサガサと草むらが音を立てる。僕が草むらに目を向けると、「ニャア」と可愛らしい声で鳴きながら白い猫が姿を見せた。体にハートの模様があり、目は綺麗なアンバーだ。

「君、また会ったね」

僕がそう声をかけると、猫はゆっくりと僕に近付いてくる。そして僕に擦り寄ってきた。

この猫は、最近この公園に現れるようになった猫だ。野良猫にしては体が綺麗だ。でも、鈴のついた首輪などはつけていないから、飼い猫ではないと思うんだけど……。

初めてこの猫と会った時、この猫は僕を見てすぐに逃げて行ってしまった。その時、僕は「待って!」と大声で叫んでしまっていた。誰とも目が合わない僕が、初めて目を合わせられた相手だったからかもしれない。
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