凍りついた愛
 その名前が彼の口から出てくるなんて、思いもしなかった。

 せっかくの旅行が最悪なものになってしまった。

 歩いていると遠くで賑やかな声が響いてきた。

 何だろうかと思いながら近づくと、宴会を行っていて、それで盛り上がっている。

 明るい声を聞きたくなくて、その場から離れた。洋菓子店の前を通り過ぎようとしたとき、小さな音が鳴った。

 ふと足元を見るとライトが点滅しているので覗き込むと、スマートフォンが落ちていた。

 誰かが落としたようなので、フロントに向かった。

 しかしフロントには誰もいなくて、気配も感じられない。

 宴会場に大勢の人達が集まっていることを思い出した。

 従業員が忙しそうにしていて、おそらく現在も忙しく動き回っているだろう。

 スマートフォンを落とした主に届けたいと思っても、どこの誰だかわからない。

 そういえば、スマートフォンカバーにカードを挟んでいる人を前にテレビで観たことがあった。

 そっと開くと、部屋のカードキーが挟んであった。
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