凍りついた愛
「あの・・・・・・」

「どこにあった?」

 落ちていた場所を伝えて、スマートフォンの音が鳴ったこと、カードキーが挟んであったことも言った。

「そうか、助かった。ありがとう」

「いえ・・・・・・」

 今もそれを落とした人が困っているのではと思い、そのことを言葉にした。

「それなら心配ない」

 彼は小さく頭を横に振った。

「どうして?」

「もう戻ってこないんだ・・・・・・」

 彼の表情が曇り、遠くを見つめている。

「あなたも喧嘩をしたの?」

 思わず言ってしまい視線を逸らしたとき、空腹の音が鳴った。

 音が鳴って顔を赤くして俯いていると、くすりと笑い声が耳に届いた。

 顔を上げると、彼は笑顔になっていた。

「お前、面白いな」

「面白くないです・・・・・・」

 お前呼ばわりしないように言うと彼は謝って、名前を訊いてきた。

「なずなです」

 そういえば、まだ彼の名前を知らない。

 そのことを言って、どういう字を書くのか質問すると、テーブルの上に置いてある紙とペンを持ってきて名前を書いてくれた。
「紫苑(しおん)さん・・・・・・」

 紙に書いた名前を見ていると、良い匂いが漂ってきた。

 数種類のフルーツをたっぷり使ったフルーツタルトとスパークリングワインを持ってきてくれた。
 
「紫苑さんは食べないんですか?」

 皿やフォークを用意したのはなずなの分だけ。

「俺はいい・・・・・・」

 食欲がない。気にせず食べるよう促されたので、フォークを手に取った。

 フルーツタルトを頬張っている間、紫苑はなずなの様子を見ていた。

 フルーツタルトに満足して、二人でスパークリングワインを味わっていた。

「いつからここに泊まっているんだ?」

「一昨日からです。恋人と一緒に来ていて、それで・・・・・・」

 それで彼が浮気をしていたことが発覚した。

「その男と今日喧嘩したのか」

「彼、浮気していたんです・・・・・・」

 なずなは彼とのことを話し始めた。

「浮気していた相手、私の姉なんです」

 ここのところ、彼の様子がおかしいことに気づいていた。
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