ツンデレ魔王様と同居生活はじめます。
「…俺が…強い?」
嵐くんの声は掠れていた。
ボトッ、と力の抜けた手からおにぎりが落下する。
「えっちょっ、おにぎり!!」
「え…ぅわっ!!」
時差でおにぎり落下に気づいた嵐くんが慌てておにぎりを拾い上げたけど、見事に砂だらけ。
「うわー…さすがに無理か」
「いやいけるよ!3秒ルール!それか表面の砂を払って…!」
なんとか食べられないか考える私に、ふはっ、と嵐くんが吹き出した。
「いやいいよ、もう」
「でももったいなくない!?」
「りの」
嵐くんが拾い上げたおにぎりをビニール袋に入れる。
「ありがと。そんなこと言ってくれて。りのといるとなんか、元気出るわ」
「えっ、3秒ルールが?」
「そっちじゃねーよ」
くつくつ肩を揺らした嵐くんが、不意に真面目な顔になって。
「でも俺はほんとは…そんなこと言ってもらえる人間じゃないんだ。俺は…」
でも嵐くんの口から、その先の言葉が紡がれることはなく。
「…嵐くん?」
「…ううん。なんでもない。そろそろ帰ろーぜ、送る」
ふわりと笑った嵐くんの横顔は、
いつもの軽そうな笑顔じゃなくて
なんだか悲しいことを我慢してる、みたいな。そんな顔に見えた。