ツンデレ魔王様と同居生活はじめます。




「…あの夜」



視線は前に向けたまま、呉葉さんが口を開く。




「暁を誘惑しようとした。

でも暁、貴方が帰ってこないってそればっかで。ずっと時計見てるし、誘惑どころか…まるで透明人間になった気分だった。

その時、痛いくらいわかったの。

暁は私のこと、1ミリも見てないんだって。




暁は今、貴方のことを見てる」





呉葉さんが自嘲気味に口角をあげて、私に視線をうつした。





「ほんと幻滅。
まさか暁の女の好みがこっんなに最悪だったなんて」



「…呉葉さん」



「じゃあね。好みが変わってる同士、お似合いなんじゃない」




窓が閉まる直前に見た呉葉さんの顔は、いつもの勝気な笑顔だった。




音もなく、静かに車が走り出す。






「…ねえ、りのちん」






隣に立っていた宮前龍太郎が、私にだけ、かろうじて聞こえるくらいの声量で言った。






「暁のこと好きって、ほんと?」





< 250 / 336 >

この作品をシェア

pagetop