ツンデレ魔王様と同居生活はじめます。
「…あの夜」
視線は前に向けたまま、呉葉さんが口を開く。
「暁を誘惑しようとした。
でも暁、貴方が帰ってこないってそればっかで。ずっと時計見てるし、誘惑どころか…まるで透明人間になった気分だった。
その時、痛いくらいわかったの。
暁は私のこと、1ミリも見てないんだって。
暁は今、貴方のことを見てる」
呉葉さんが自嘲気味に口角をあげて、私に視線をうつした。
「ほんと幻滅。
まさか暁の女の好みがこっんなに最悪だったなんて」
「…呉葉さん」
「じゃあね。好みが変わってる同士、お似合いなんじゃない」
窓が閉まる直前に見た呉葉さんの顔は、いつもの勝気な笑顔だった。
音もなく、静かに車が走り出す。
「…ねえ、りのちん」
隣に立っていた宮前龍太郎が、私にだけ、かろうじて聞こえるくらいの声量で言った。
「暁のこと好きって、ほんと?」