あなたは運命の人
何を言っているのだろうと私は顔を上げた。

突然目の前が陰ったかと思ったら、目の前には顔を傾げ、目を伏せる桐人君のドアップが。

一秒後、唇には柔らかくて温かい感触が、ふにっと押しつけられた。

桐人君の長い睫毛が一本一本はっきりと見える近さで、あの過呼吸の時より遥かに優しく、私達の唇が重なっている。


こ、これって……キス!?


そこにチンっと軽い機械音。

桐人君がパッと離れていった。

目の前のエレベーターの扉が開いた。

桐人君が扉の先へと歩いていく。

何事もなく。

私は目を瞬かせることなく、受けた体勢のまま固まっているというのに。


「美優、降りないと迷惑になるよ」

桐人君の声にハッとすると、エレベーターの扉が閉まらないように降りた先から片手で扉を押さえつけている桐人君と、その後ろには宿泊客だろうスーツを着た男性二人が、降りない私を不思議そうに見ていた。

「ご、ごめんなさいっ!」

慌てて飛び降りた。
熱のせいもあって、私は足が縺れた。
床に転けなくて良かったが、桐人君の胸へとポスンとダイブ。
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