今日からはじまる恋の話
②
* * *
14歳の時、初めて人を好きになった。
心の中で大切に育んでいた初恋だった。
『好きです』
勇気を出して伝えた告白はシンプルだった。
結果としてフラれた。それはもう、俺の甘酸っぱい初恋を苦いだけにするくらいの威力があった。
それ以降も気になる人は定期的に現れたけれど、自分の気持ちを出すことはしなかった。
臆病なんて可愛らしいものじゃない。
俺は人を好きになることが怖い。
思春期に負った傷痕が今もじくじくと膿んで、治るどころか悪化しているような気がした。
* * *
「零士くんが恋をするなら、私みたいな人がいいと思う」
常連客として通っている焼き鳥屋。来店から小一時間が経った頃、向かい合わせで座っている綾子さんがビールを片手にそんなことを言ってきた。
綾子さんと知り合った時、俺はまだ19歳だった。
綾子さんとの年の差はちょうど十歳。俺も21歳になったように、綾子さんも31歳になったばかりだ。
年齢のことを言うとめちゃくちゃ怒られるけれど、綾子さんは若いし、流行りのことにも詳しいから俺は同年代のような気持ちでいたりする。
「あれ、今って無人島ツアーの話でしたよね? なんで急に恋の話になったんですか?」
飲み放題でがんがん飲んではいるけれど、ビール4杯で綾子さんが酔うにはまだ早い。