今日からはじまる恋の話
「おかえり」
家に帰ると、鈴村しかいなかった。他のみんなはゼミやバイトに行ってるそうだ。
「そ、その顔どうしたの……?」
ソファに寄りかかっている鈴村の右頬が腫れていた。
「あーなんか殴られた」
「え、誰に? 喧嘩?」
「違う。友達に一芝居を打ってくれって頼まれてさ。ほら、この前チャビーバニーやった時にいた女子のひとり」
詳しく話を聞くと、その子は元カレにしつこくされていたそうで、諦めさせるために彼氏のふりをしてほしいとお願いされたんだとか。
「それで殴られたの?」
「うん。でも満足したみたいで帰ったよ。もう二度と彼氏のふりはしねーからなって友達に言っといた」
でも、またその子が泣きついてきたら鈴村は引き受けると思う。
鈴村は口では面倒くさいと言っても、頼まれたら断れない。いや、困ってる人を無視できないと言ったほうが正しい。
こうして理不尽に自分が殴られても、結果的に丸く収まれば誰のことも責めたりはしない。人がいいを通り越して、かなりのお人好しだ。