今日からはじまる恋の話


「ちゃんと冷やしたほうがいいよ」

俺は冷凍庫から氷を取り出して、小さなポリ袋に放り込んだ。それを鈴村に渡すためにソファへと近づく。

「平気だって。まあ、ちょっと血の味はしてるけど」

「切れてるのかも。見せてみて」

「え、」

「早く口開けて」

ゆっくりと開いた口の中を覗き込む。鈴村は歯並びがいいから、32本の白い歯が綺麗に整列していた。


「あ、やっぱり右側が少し切れてるよ。飲み物とかしみるかもよ」

そう言うと、まるでゲームのワニワニパニックのように、急にカチンッと口が閉じられた。

「ま、待って。口の中見られんのめっちゃ恥ずかしいんだけど!」 

「え、なんで? 歯医者と同じじゃん」

「そうだけど、口の中なんて普段見せることねーじゃんよ」

いつも飄々(ひょうひょう)としてるくせに、鈴村は耳を赤くさせていた。急にこっちまで恥ずかしくなってきて、「ご、ごめん」と意味もなく謝った。

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