今日からはじまる恋の話


* * *


あいつに触れた時、なにかが弾けた。

その感情の名前を今も探している。


* * *



「お前ミスばっかりじゃん。どうした?」

あれから数日が経ち、俺はフットサルの練習場にいた。せっかく社会人フットサルチームの人たちを呼んで試合を組んでもらったのに、初歩的なパス回しもうまくできなかった。

「いやあ、すみません。夏バテっすかね?」

同じチームメイトの先輩に指摘されて、乾いた笑みを浮かべる。ベンチに戻り、試合用のシューズを脱いだあと、そそくさとスニーカーに履き替えた。

「まだ6月だし夏じゃねーだろ。あ、そういや陽汰んとこのシェアハウスに経済学部のやついるじゃん? なんだっけ、名前」

「零士、ですか……?」

「あーそうそう。宇津見零士。あいつに今度やる合コンのメンバーに入るように頼んでくれない? やっと東女(とんじょ)とセッティングができたんだけど、東大だったら宇津見くんが来なきゃ嫌だって言うんだよ」

東女とは杉並区にある東京女子大学のこと。東京にある女子大御三家のひとつとも言われていて、清楚系美女が多いことでも有名だ。

零士が来なきゃ嫌だって……あいつどんだけ顔が知られてるんだよ?

「頼んでも合コンなんて参加しないと思いますよ」

「そこをなんとかしてよって話じゃん」

「無理っすよ。だってあいつは……」

「あいつは?」

「合コンとか苦手なタイプなんで」

まさか女子に興味がないとは言えない。

そのあともしつこく零士を説得するように言われたけれど、俺は絶対に首を縦に振らなかった。

いつもは気前がいい先輩だけど、女絡みになると人が変わったように目をギラつかせる人でもある。よほど東女との合コンに期待をしているのか、なかなか引き下がらなかった。

「やっぱりアレか。経済学部のやつは理二の俺らと遊んだりしないか」

話が違う方向にいってしまったけれど、否定するのも面倒だから「そーすね」と適当な相づちだけをしておいた。

< 30 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop