今日からはじまる恋の話
③
* * *
あいつに触れた時、なにかが弾けた。
その感情の名前を今も探している。
* * *
「お前ミスばっかりじゃん。どうした?」
あれから数日が経ち、俺はフットサルの練習場にいた。せっかく社会人フットサルチームの人たちを呼んで試合を組んでもらったのに、初歩的なパス回しもうまくできなかった。
「いやあ、すみません。夏バテっすかね?」
同じチームメイトの先輩に指摘されて、乾いた笑みを浮かべる。ベンチに戻り、試合用のシューズを脱いだあと、そそくさとスニーカーに履き替えた。
「まだ6月だし夏じゃねーだろ。あ、そういや陽汰んとこのシェアハウスに経済学部のやついるじゃん? なんだっけ、名前」
「零士、ですか……?」
「あーそうそう。宇津見零士。あいつに今度やる合コンのメンバーに入るように頼んでくれない? やっと東女とセッティングができたんだけど、東大だったら宇津見くんが来なきゃ嫌だって言うんだよ」
東女とは杉並区にある東京女子大学のこと。東京にある女子大御三家のひとつとも言われていて、清楚系美女が多いことでも有名だ。
零士が来なきゃ嫌だって……あいつどんだけ顔が知られてるんだよ?
「頼んでも合コンなんて参加しないと思いますよ」
「そこをなんとかしてよって話じゃん」
「無理っすよ。だってあいつは……」
「あいつは?」
「合コンとか苦手なタイプなんで」
まさか女子に興味がないとは言えない。
そのあともしつこく零士を説得するように言われたけれど、俺は絶対に首を縦に振らなかった。
いつもは気前がいい先輩だけど、女絡みになると人が変わったように目をギラつかせる人でもある。よほど東女との合コンに期待をしているのか、なかなか引き下がらなかった。
「やっぱりアレか。経済学部のやつは理二の俺らと遊んだりしないか」
話が違う方向にいってしまったけれど、否定するのも面倒だから「そーすね」と適当な相づちだけをしておいた。