今日からはじまる恋の話
「お、俺のことが物珍しいだけだよ。興味本位で男と遊んでみようって思う人は少なくない。鈴村も興味と恋を勘違いしてるだけだよ」
「興味本位なんかじゃねーし、こうして人に好きだって伝えたのもお前が初めてだよ」
「俺なんてやめときなよ。一時の感情でこっち側に来たら元に戻れなくなるよ。そしたら鈴村の人生が180度変わることになる。今まで鈴村は女の子のことを好きになって付き合ってきたんだから、その生まれ持った性質を大切にしたほうがいい」
零士の言葉がグサグサと胸に突き刺さる。
まるで絶対に登れないような壁を、ひとつずつ積まれているような感覚だ。
「俺のことじゃなくてお前はどうなんだよ?」
「俺は……ノンケの人とは付き合わない」
「ノンケとかゲイとかそんなのどうでもいいんだよ! 俺が聞きたいのは、お前にとって鈴村陽汰はアリかナシかどっちなんだよ!」
こんなふうに気持ちを伝えた以上、友達に戻る気はさらさらない。
迷惑だって言うなら大人しくしてるし、他に好きなやつがいるなら、頑張って身を引く努力くらいはするつもりだ。
「……ちょっと、頭冷やしてくる」
「は、おい……!」
俺の制止を振りきって、零士はどこかに行ってしまった。
頭を冷やしてくるってなんだよ。全然答えになってねーじゃんか。俺は力が抜けたようにその場にしゃがみ込んでため息をついた。
俺だってこんな気持ちを抱くなんて夢にも思ってなかった。
でも理屈じゃないし、勘違いでもない。本能的に宇津見零士に惹かれている。
元に戻れなくなる?
人生が180度変わる?
だからどうした、ばか野郎。
後戻りする気なんて、こっちは1ミリもねーんだよ。